院長コラム
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院長コラム2026/02/18
悪玉コレステロール(LDL)はどこまで下げる必要があるのか? ― 低ければ低いほどよいというのは本当か? ―
「先生、LDLは低ければ低いほどいいって本当ですか?」
最近よく聞かれる質問です。
スタチンが一般化し、エゼチミブやPCSK9阻害薬も登場し、
LDLをかなり低くまで下げられる時代になりました。一方で、
「下げすぎは体に悪いのでは?」
「薬で無理に下げるのは怖い」
という不安も根強くあります。
実際に治療を始めて、LDLが100以下に低下したことに不安を覚えて、薬を継続することに抵抗感を感じる方も少なくないと感じています。循環器内科の立場から言えば、
LDLは単なる数値ではありません。
動脈硬化の“燃料”そのものです。では、どこまで下げるべきなのか。
本当に“低ければ低いほど良い”のか。私が外来で不安に思っている患者さんにお話しするようにデータと臨床経験の両方から整理して解説いたします。
LDLコレステロールはなぜ悪いのか ― 動脈硬化の本質
LDLが問題になる理由は明確です。
LDLは血管内皮の傷ついた部分から入り込み、
酸化され、マクロファージに取り込まれ、
泡沫細胞を形成し、プラークを作ります。これが動脈硬化の基本メカニズムです。
LDLはわかりやすく一言でいうなら
「血管の壁に沈着する物質」
と言い換えてもよいでしょう。疫学研究では、
LDLが高いほど心筋梗塞・脳梗塞のリスクは
直線的に上昇することが示されています。重要なのは、
ある一定値を超えると急に悪くなるのではなく、
“連続的”に比例してリスクが上がるという点です。
ガイドラインはどこまで下げることを推奨しているか
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、
リスクに応じて目標LDLが設定されています。・一次予防(低リスク) → 160mg/dL未満
・中リスク → 140mg/dL未満
・高リスク → 120mg/dL未満
・二次予防(冠動脈疾患既往) → 100mg/dL未満
・極高リスク(再発リスク高い) → 70mg/dL未満少し用語が難しいのでかみくだいて説明します。
1次予防というのは、健康な方が血管イベント(脳梗塞や心筋梗塞)を起こさないようにという意味です。
つまり0➤1にならないようにという予防です。2次予防というのは既に一度血管イベントを起こしている方がまた再発しないように世いう意味です。
1➤2にならないようにという予防です。当然一度起こしてしまった患者さんが再発する確率の方が高くなるので、LDLコレステロールの目標値は低めに設定しなければいけません。
欧米ではさらに厳しく、
二次予防で70未満、
場合によっては55未満を目標とします。なぜここまで下げるのか。
大規模試験(CTTメタ解析)では、
LDLを1mmol/L(約38mg/dL)下げるごとに、
主要心血管イベントが約20〜25%減少
することが示されています。つまり、
LDLは下げれば下げるほど、
統計的には心血管イベントは減ります。
「LDLコレステロールは低ければ低いほどよい」は本当か?
結論から言えば、
心血管イベント抑制という意味では“概ね正しい”です。PCSK9阻害薬の試験では、
LDLを30mg/dL台まで下げても、
重大な安全性シグナルは確認されていません。人類史的に見ても、
狩猟採集民のLDLは50〜70mg/dL程度と報告されています。
つまり、生理的に異常な値ではありません。ただし、ここで重要なのは文脈です。
前述した通り、一人一人でリスクは異なるため全員が全員が50未満を目指す必要はありません。
・若年でリスク因子が少ない
・動脈硬化の進行が軽い
場合には、過度な薬物介入は不要です。一方で、
心筋梗塞既往、糖尿病合併、CKD併存など
ハイリスク例では、
LDL70未満、場合によっては55未満も妥当です。そのようなハイリスクの患者さんの場合は最初に180あったLDLが薬を使用して80まで下がったとしても、「いいですね。」とはならず「まだ下げる必要があるため薬剤調整します。」という流れになります。
私が外来で考えている“現実的な落としどころ”
私は外来で、次の順番で考えます。
① すでに動脈硬化イベントを起こしているか
② 糖尿病・高血圧・喫煙歴はあるか
③ 家族歴はどうか (血縁者で心筋梗塞や脳梗塞などの血管イベントを起こしている方はいるか?複数か?)
④ 頸動脈エコーや心エコーの所見はどうか (実際にプラークなどは豊富なのか)そして、
“その人の10年後のリスク”を想像します。LDLを100で維持するのと、
70まで下げるのとでは、
10年単位で見ると差が出ます。一方で、
副作用や生活の質も無視できません。大切なのは
「数値を追いかけること」ではなく、
将来の心筋梗塞を減らすことです。LDLは目的ではなく、
あくまでリスク低減のための指標です。私は循環器内科専門医として大学病院で多くの心筋梗塞患者さんを拝見し治療して参りました。
その方の大半はLDLコレステロールが未治療です。
それを身をもって体験しているためいかにLDLコレステロールを下げることが大事かを理解しています。循環器内科医の同僚や先輩は自身のLDL値を気にし、少しでも高いと危機感を覚え、場合によっては内服をためらわず行います。
この私たち医療者と患者さんのLDLに対する認識の温度差をなくすことが非常に重要であり課題であると痛感しております。治療が必要な患者さんが納得して治療を受けられるように、今後も丁寧な説明を心掛けて臨みたいと思います。
参考文献
日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022
Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaboration. Lancet. 2010.
Sabatine MS et al. FOURIER Trial. NEJM. 2017.
Schwartz GG et al. ODYSSEY Outcomes. NEJM. 2018.
Ference BA et al. Eur Heart J. 2017.このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会