高脂血症とは?
高脂血症は高コレステロール血症や脂質異常症などとも呼ばれ、血液中の脂質バランスが崩れた状態です。 高血圧と糖尿病と共に「動脈硬化の最も大きな引き金」となる生活習慣病の一つです。実際に外来業務をしていると高血圧や糖尿と同等の血管リスクを引き起こすにも関わらず患者さんは前者に比べて楽観視していることが多々あります。 中々、この分野はイメージもしづらく難しいですが、非常に重要なため簡潔にまとめました。特にLDLコレステロールは“悪玉コレステロール”とも呼ばれることでわかるように、脂質の項目の中でも最も重要であり、これを中心に述べていきます。
主要な脂質項目とその意味
項目 | 正常値の目安 | 高いとどうなる? |
---|---|---|
LDLコレステロール(悪玉) | <120 mg/dL(リスクに応じて70以下も) | 動脈硬化の最大リスク因子 |
HDLコレステロール(善玉) | ≧40 mg/dL | 問題なし(保護因子) |
中性脂肪(TG) | <150 mg/dL | 膵炎や肝機能障害のリスク、動脈硬化も |
特に注目すべきLDLコレステロールは肝臓から全身にコレステロールを運ぶ役割を持ちますが、血中に多すぎると血管壁に沈着し、「プラーク(脂質のかたまり)」となって動脈硬化を進めます。 中性脂肪は採血前の食事の内容やタイミングで比較的数字は波があります。
LDLの目標値
患者の背景(糖尿病、喫煙、高血圧、家族歴、既往歴)によってリスクを評価し、「LDLコレステロールをどこまで下げなければならないか」が決まります。
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▶︎ 心血管疾患の既往あり
LDL<70 mg/dLを目標
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▶︎ 糖尿病あり
LLDL<100 mg/dL
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▶︎ 一般成人
LDL<120 mg/dL
治療(生活改善・薬物療法)
基本は食事・運動療法ですがリスクが高い場合や家族歴(血縁者にコレステロールが高い方がいらっしゃる場合)には薬物治療が必要なことが多いです。食事は乳製品(バターやチーズ、卵、ヨーグルト)や動物の肉には比較的多く含まれるため、頻度を減らしたり、魚をメインにするなどでいくらか改善が期待されます。
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
代表例:ロスバスタチン、アトルバスタチン
LDLを効果的に下げ、心血管イベント抑制効果が最も実証されている第一選択薬
副作用:肝機能障害、筋肉痛(まれに横紋筋融解)
歴史も古く、安価であり、朝1回の薬がメインであるため選択しやすいです。
しかしながら上記副作用も一定数あるため、導入後の血液検査は必須です。
基本的にはスタチン1剤でコントロールが可能です。
エゼチミブ
小腸からのコレステロール吸収を抑える こちらはサブ的に使用する位置づけです。 スタチンのみでは目標値まで達しない場合に追加したり、副作用でスタチンを使えない時に代わりに用いることが多いです。 スタチンと比べると、LDL低下作用は弱い一方で副作用もマイルドであることが利点です。 最近はスタチンとエゼチミブの配合錠も複数あり、臨床現場ではしばしば使用されます。
PCSK9阻害薬(注射薬)
例:エボロクマブ、アリロクマブ
非常に強力なLDL低下作用(50~60%減)
遺伝性が強い家族性高コレステロール血症やスタチン抵抗性(もしくはスタチンが副作用で使えない)の場合に使用。
注射製剤であり、手技習得のハードルが高いのと、薬剤費も高価であることがデメリット。
フィブラート系薬(中性脂肪↓、HDL↑)
中性脂肪が高いタイプに有効
ここがポイント
高脂血症の本質は、見えないうちに血管を蝕む静かな進行性疾患です。特にLDLコレステロールは、「血管のサビ」とも言える存在で早期発見・早期対応で、未来の心臓病や脳梗塞のリスクを大きく下げることができます。 高脂血症の重要性は患者さんと医師で大きく温度差があることが多いと痛感しています。 専門である私はいかに高脂血症が中長期的に健康へ悪影響を及ぼすのか、一人一人の患者さんと向き合い説明することを心掛けております。
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022」
- Grundy SM et al. 2018 AHA/ACC Guidelines on the Management of Blood Cholesterol. J Am Coll Cardiol. 2019.