糖尿病と⼼⾎管疾患の関係

糖尿病は単に血糖値が高くなる病気ではなく、血管そのものにダメージを与え、動脈硬化を進行させる大きな要因となります。特に、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患のリスクを大幅に高めることが知られています*¹。 糖尿病患者の約半数が最終的に心血管疾患で命を落とすとされております。

なぜ糖尿病が心臓や血管に悪影響を及ぼすのか?

高血糖の影響で血管の内皮細胞が傷つきやすくなり、血管が慢性的な炎症を起こしやすくなります。この状態が続くと動脈硬化が進行し、血管が狭くなったり詰まりやすくなったりします。これに加え糖尿病ではLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が酸化されやすく、より動脈硬化を引き起こしやすい形に変化してしまいます*³。
また糖尿病は「サイレントキラー」とも呼ばれるように、心臓の病気が進行していても自覚症状が出にくいことが特徴です。通常なら狭心症では心臓を栄養する血管が徐々に狭くなり、それに伴い胸の痛みを感じますが、糖尿病患者では神経障害の影響で痛みを感じにくく、知らないうちに狭心症が進行し心筋梗塞を発症してしまうことがあります。糖尿病を持っていると狭心症や心筋梗塞のリスクが2〜4倍に増加するとされています。

▶︎ 脳血管疾患(脳梗塞・一過性脳虚血発作)
糖尿病は心臓だけでなく脳の血管にもダメージを蓄積させ、脳梗塞のリスクを格段に高めます。また一時的に脳の血流が途絶える「一過性脳虚血発作(TIA)」も起こりやすく、将来的な脳梗塞の前兆となることがあります。


糖尿病による心血管疾患を防ぐために

糖尿病患者にとって心血管疾患を予防するためには、単なる血糖管理だけでは不十分です。以下のポイントを意識することが重要です。

  • 血糖値だけでなく、血圧・脂質も厳格に管理する

    - 医師と二人三脚で

  • 定期的な動脈硬化の評価

    - 頸動脈エコーや心電図、血液検査など

  • 禁煙・適度な有酸素運動・バランスの取れた食事を継続する

糖尿病は適切に管理すれば、心血管疾患のリスクを大きく減らすことができます。心臓や血管の健康を守るためにも血糖コントロールとともに包括的なケアを心がけましょう。 最近は心臓や腎臓を保護する効果を有する糖尿病治療薬が登場し、臨床現場では第一線で活躍しております。 また動脈硬化性疾患や心不全、虚血性心筋症も循環器疾患のページでわかりやすくまとめておりますのでご参考いただければと思います。

  • *¹: Emerging Risk Factors Collaboration. "Diabetes Mellitus, Fasting Glucose, and Risk of Cause-Specific Death." N Engl J Med. 2011.
  • *²: American Diabetes Association. "Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Medical Care in Diabetes—2022." Diabetes Care. 2022.
  • *³: UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. "Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33)." Lancet. 1998.