糖尿病の急性合併症

代表的な3つの病態

代表的な3つの病態 ① 糖尿病ケトアシドーシス、② 高浸透圧性高血糖症候群、③ 低血糖発作について解説していきます。

① 糖尿病ケトアシドーシス

  • 主に1型糖尿病で見られる重篤な合併症で、インスリン不足により血糖値が異常に高くなり、体がエネルギー不足を補うために脂肪を分解しすぎることで起こります。病態概念でも述べたいわゆる「異化」がこの病態の背景にあります。 身体は無数の細胞で構成されており、それら細胞は繊細なpHで管理されています。異化が進むことで、その代わりに生まれたケトン体という酸性の物質が体内に蓄積され体内環境が酸性へ傾きます。脳細胞に悪影響を及ぼした場合には意識障害や昏睡といった全身症状をもたらすのです。*¹

  • 対処法:

    速やかなインスリン投与と点滴による水分補給が必要です。

  • *¹: Kitabchi AE, et al. "Diabetic ketoacidosis and hyperglycemic hyperosmolar state in adults: Treatment." Uptodate. 2023.

② 高浸透圧性高血糖症候群

主に2型糖尿病の高齢者で発症することが多く、極端な高血糖(600 mg/dL以上)が持続することで血液が異常に濃くなり高浸透圧状態となります。①のケトアシドーシス同様に脳に作用し意識障害を引き起こしますが、異なる点としてはケトン体という物質はほとんど産生されないことが挙げられます*²。

若くても肥満のある2型糖尿病の方が糖尿病症状である口渇感でコーラやポカリスエットなどの清涼飲料水ばかりを摂取することでも同様の病態が引き起こされます。(ソフトドリンク症候群と称します。) 誤った疾患理解から生じる合併症であり、注意が必要です。

  • *²: Pasquel FJ, et al. "Hyperosmolar hyperglycemic state: a historic review of the clinical presentation, diagnosis, and treatment." Diabetes Care. 2021.

③ 低血糖発作

  • 特徴:

    血糖値が70mg/dL以下に低下すると、体がエネルギー不足になり、さまざまな症状が現れます。特にインスリンやSU薬(無理やり自身のインスリンを出させるように作用する薬)を使用している患者では食事を抜いたり、運動量が増えたりすると低血糖を起こしやすくなります*³ので注意が必要です。

  • 主な症状:

    冷や汗、動悸、手の震え
    強い空腹感、めまい
    意識障害(重症の場合は昏睡)

  • 対処法:

    軽度や前兆時であれば、すぐに手持ちの飴玉、ブドウ糖(15g)やジュースを摂取することで回復します。重度の場合は救急対応が必要になることもあるため、周囲の人にも低血糖時の対応を伝えておくことが大切です。

  • *³: Cryer PE. "Hypoglycemia in diabetes: Pathophysiology, prevalence, and prevention." American Diabetes Association. 2022.


ここがポイント

糖尿病の急性合併症は適切に対処しなければ命に関わることもあります。特に感染症や脱水などが誘因になりやすいため、日頃から血糖値を適切に管理し、異変を感じた際には速やかに医療機関を受診することが重要です。 脳細胞は大量の糖を必要・消費するため、上記3つの合併症に共通している意識障害や昏睡といった症状が出現するのです。