院長の生活習慣病コラム
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院長の生活習慣病コラム2026/07/02
「塩分は血管を静かに蝕む——降圧薬が効かない人が見落としている、血圧・心臓・腎臓への本当のダメージ」
はじめに——「減塩しています」「薬も飲んでいます」、それでも下がらない理由「先生、ちゃんと薬を飲んでいます。塩分も気をつけています。でも血圧が下がらないんです」外来でこう言われることが、週に何度もあります。
患者さんは嘘をついているわけではありません。本当に努力しているのです。しかし血圧は思うように下がらない。この「頑張っているのに結果が出ない」状況には、必ず理由があります。そしてその理由の多くは、塩分に関する「思い込み」と、降圧薬への「過信」の組み合わせから生まれています。
まず知っておいていただきたいのは、塩分(ナトリウム)は単に「血圧を上げる物質」ではないということです。塩分は、血管壁を直接傷め、心臓を肥大させ、腎臓をじわじわと壊していく——そういう意味で、血管にとっての「静かな毒」です。そして日本人の塩分摂取量は、世界的に見ても突出して高い水準にあります。今回は、塩分が体に何をしているのかという根本から、降圧薬が効かない具体的な原因まで、循環器内科専門医として日々の外来で感じていることを率直にお伝えします。
塩分は「血圧を上げるだけ」ではない——血管・心臓・腎臓への直接ダメージ
塩分が血圧を上げるメカニズム塩分(塩化ナトリウム)を摂取すると、血液中のナトリウム濃度が上昇します。体はこの濃度を一定に保とうとして、水分を血管内に引き込みます。血液の量(循環血液量)が増えることで、心臓はより強く血液を送り出さなければならず、血圧が上がります。同時に、ナトリウムは血管壁の平滑筋細胞に直接作用し、血管を収縮させます。血管が細くなれば、同じ量の血液を流すためにより高い圧力が必要になる——これが塩分による血圧上昇の二重メカニズムです。しかし問題は、血圧上昇だけではありません。
塩分は血管壁を直接傷める
高塩分状態が続くと、血管の内側を覆う「血管内皮細胞」が機能不全を起こします。血管内皮細胞は、血管を広げる一酸化窒素(NO)を産生する重要な細胞ですが、ナトリウム過剰の環境では、このNO産生能力が低下します。さらに、高ナトリウム状態は血管内皮細胞に酸化ストレスを与え、炎症を引き起こします。この慢性的な炎症が、動脈硬化の進行を加速させます。つまり塩分は、血圧を上げることで間接的に血管を傷めるだけでなく、血管壁に直接ダメージを与えているのです(Montezano AC, et al. Current Hypertension Reports, 2014)。私の外来でも、若い頃から塩分の多い食事を続けてきた患者さんは、同じ血圧値でも頸動脈エコーで見ると血管壁が明らかに厚くなっているケースを何度も経験しています。血圧の数字だけでは見えない、血管の老化が着実に進んでいるのです。心臓への直接ダメージ——左室肥大という静かな脅威
高塩分・高血圧の状態が続くと、心臓は高い血圧に抗って血液を送り出し続けるために、筋肉を肥大させます。これを「左室肥大」と呼びます。左室肥大は、一見「心臓が強くなった」ように見えますが、実際は逆です。心臓の筋肉が分厚くなると、心臓自体への血液供給(冠動脈血流)が相対的に不足し、心筋虚血が起きやすくなります。また、肥大した心臓は拡張しにくくなり、「拡張不全」という状態を引き起こします。これが慢性心不全の主要な原因の一つです。重要なのは、塩分がこの左室肥大を、血圧上昇とは独立して引き起こすという点です。動物実験および臨床研究で、同じ血圧水準でも塩分摂取量が多い群では左室肥大が進みやすいことが示されています(Schmieder RE, et al. Journal of the American College of Cardiology, 1996)。塩分は心臓にとって、血圧を介さない直接の毒でもあるのです。腎臓への静かな破壊——塩分と慢性腎臓病の関係
腎臓は塩分(ナトリウム)の排泄を担う臓器です。しかし、慢性的に高塩分の食事を続けると、腎臓の濾過機能を担う「糸球体」に過剰な圧力がかかり続けます。これを「糸球体高血圧」と呼び、長期的には糸球体が傷み、腎機能が低下していきます。さらに腎機能が低下すると、ナトリウムをうまく排泄できなくなり、血圧がさらに上がる——という悪循環が生まれます。高血圧が腎臓を壊し、腎臓が壊れると高血圧が悪化する。この「高血圧・腎臓・塩分」の三角関係が、慢性腎臓病(CKD)の進行を加速させます。日本の慢性透析患者数は年々増加しており、その背景にある高血圧・糖尿病の管理不全と過剰な塩分摂取は、切り離して考えることができません。日本人の塩分摂取量は「過剰」のレベル
WHOが推奨する1日の塩分摂取量は5g未満です。日本高血圧学会は6g未満を目標としています。しかし令和元年国民健康・栄養調査によると、日本人成人の平均塩分摂取量は男性10.9g、女性9.3gです。推奨量の約2倍を摂取しているのが現実です。「私は薄味にしています」とおっしゃる患者さんでも、外食・加工食品・麺類のスープを含めると、想像以上の塩分を摂取していることがほとんどです。この「隠れ塩分」の問題については第3章で詳しくお伝えします。
降圧薬が効かない5つの原因
「薬を飲んでいるのに下がらない」には必ず理由がある
降圧薬を正しく服用しているにもかかわらず血圧が目標値に達しない状態を「治療抵抗性高血圧」と呼びます。ただし、真の治療抵抗性高血圧は全高血圧患者の10〜15%程度とされており、多くの場合は以下の「取り除ける原因」が潜んでいます。原因① 塩分摂取量が多すぎる
降圧薬の効果を最も強く打ち消すのが、過剰な塩分摂取です。特にARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)やACE阻害薬は、塩分制限と組み合わせることで初めて最大の効果を発揮します。塩分を減らさずに薬の量だけ増やしても、効果は限定的です。
外来での実感として、塩分制限を本気で実行した患者さんは、薬の種類や量を変えずに収縮期血圧が10〜15mmHg改善することが珍しくありません。薬より先に塩分を見直すべきケースは、想像以上に多いのです。原因② 薬の飲み忘れ・不規則な服用
降圧薬は毎日決まった時間に飲み続けることで血中濃度を一定に保ち、24時間血圧をコントロールします。1〜2日飲み忘れただけで血圧が跳ね上がることも珍しくありません。
「だいたい飲んでいます」という患者さんに詳しく聞くと、週に2〜3回飲み忘れているケースがあります。これでは薬の本来の効果は得られません。スマートフォンのアラームや薬の一包化など、飲み忘れを防ぐ工夫が必要です。原因③ 白衣高血圧・測定タイミングの問題
診察室で測った血圧が高いだけで、家庭では正常という「白衣高血圧」の場合、実際には薬が十分効いているにもかかわらず「下がっていない」と判断されてしまうことがあります。
逆に「家庭では正常なので薬は効いている」と思っていたら、朝の起床直後だけ血圧が160mmHgに達しているというモーニングサージのケースもあります(コラム㉛参照)。正確な評価には、家庭血圧の朝・夜の継続記録が不可欠です。原因④ 二次性高血圧が隠れている
高血圧の約10%は、別の疾患が原因で起きる「二次性高血圧」です(コラム⑥参照)。代表的なものに以下があります。
原発性アルドステロン症: 副腎から血圧を上げるホルモン(アルドステロン)が過剰分泌される病気。降圧薬を何種類飲んでも効きにくく、低カリウム血症を伴うことがあります。高血圧患者の5〜10%に存在するとされ、意外と多い疾患です。
睡眠時無呼吸症候群(SAS): 睡眠中の低酸素状態が交感神経を慢性的に刺激し、夜間・早朝の血圧を上昇させます。降圧薬への反応が悪い高血圧の背景にSASが隠れているケースは非常に多く、CPAP療法で血圧が改善することもあります。
腎血管性高血圧・甲状腺疾患・褐色細胞腫なども、「薬が効かない高血圧」の原因として忘れてはなりません。原因⑤ 体重増加・運動不足・アルコール
体重が5kg増えると収縮期血圧が平均4〜5mmHg上昇します。これは降圧薬1剤分の効果に匹敵する血圧上昇です。「薬を飲み始めてから体重が増えた」という患者さんでは、体重増加が薬の効果を打ち消している可能性があります。
また、過剰なアルコール摂取は血圧を確実に上げます。「少量のお酒は体にいい」という話を信じて毎晩飲んでいる患者さんも多いですが、純アルコール換算で男性20g/日以上(ビール中瓶1本相当)、女性10g/日以上の飲酒は、降圧効果を明らかに減弱させます。
「減塩しているつもり」が最も危ない——隠れ塩分の正体
日本の食卓に潜む塩分の罠
「塩分には気をつけています。料理に塩はほとんど使いません」——この言葉の後に食事内容を詳しく聞くと、ほぼ必ずといっていいほど大量の隠れ塩分が見つかります。
日本の食文化は、塩分との戦いが非常に難しい構造になっています。醤油・味噌・めんつゆ・ポン酢・ドレッシング・漬物・梅干し——和食の「ヘルシーなイメージ」の裏側に、これだけの塩分源が潜んでいます。隠れ塩分の代表格
ラーメン・うどん・そばのスープ: 1杯のスープを飲み干すと、それだけで塩分5〜8gに達することがあります。麺だけ食べてスープを残す習慣を、私は強くすすめています。
加工食品・インスタント食品: 即席麺1食で塩分5〜6g、カップ麺は6〜8gに達するものもあります。「スープを半分残す」だけでは不十分なレベルです。
外食の定食: 一見バランスの良い定食でも、味噌汁+漬物+メインのタレで合計4〜6gになることは珍しくありません。外食が多いビジネスパーソンは、意識していなければ1日12〜15gの塩分を摂取していることがあります。
練り物・ハム・ソーセージ: 加工肉製品は製造過程で大量の塩分が使われます。「ヘルシーな朝食」のつもりで食べているハムやウインナーも、塩分の見えない供給源です。
パン: 意外に思われるかもしれませんが、食パン6枚切り1枚に約0.7〜0.8gの塩分が含まれます。朝食に2〜3枚食べれば、それだけで1.5〜2g以上の塩分摂取になります。食塩感受性——同じ塩分でも人によってリスクが違う
「自分は塩辛いものを食べても血圧が上がらない」という人がいます。実際、塩分摂取量と血圧上昇の関係には個人差があり、これを「食塩感受性」と呼びます。
食塩感受性が高い(塩分で血圧が上がりやすい)のは、高齢者・肥満の人・腎機能が低下している人・糖尿病患者・アフリカ系の人などです。逆に若く腎機能が正常な人では、多少塩分が多くても腎臓が上手にナトリウムを排泄するため、血圧への影響が少ないことがあります。
しかし注意が必要なのは、「今は血圧が上がらないから大丈夫」ではないという点です。食塩感受性は加齢・腎機能低下とともに高まります。若い頃から高塩分の食事を続けてきた人は、腎機能が落ち始めた50〜60代から急激に血圧が上がりやすくなります。「若い頃は塩分をたくさん食べても平気だった」という患者さんほど、中高年以降に治療に苦労するケースを私はよく見ています。カリウムを増やすことの重要性
減塩と同時に重要なのが、カリウムの摂取増加です。カリウムはナトリウムの腎臓からの排泄を促し、血圧を下げる働きをします。DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)研究では、カリウム・マグネシウム・カルシウムを豊富に含む食事が、降圧薬に匹敵するほどの血圧低下効果を示しました(Appel LJ, et al. New England Journal of Medicine, 1997)。
カリウムを多く含む食品は、野菜(ほうれん草・トマト・ブロッコリー)・果物(バナナ・キウイ・アボカド)・豆類・芋類などです。「減塩だけ頑張る」よりも「カリウムを増やしながら減塩する」方が、血圧低下効果は大きくなります。
ただし、腎機能が低下している方(eGFR 45未満など)はカリウムの過剰摂取に注意が必要です。カリウムを多く含む食品を増やす前に、必ず主治医に相談してください。
当院での診療アプローチ——「なぜ下がらないか」を一緒に探します
「薬を増やす前に、原因を探る」という方針
血圧が下がらない患者さんが来院されたとき、私がまず行うのは「薬を増やす」ことではありません。「なぜ下がらないのか」の原因を丁寧に探ることです。
食事内容の詳細な確認(特に塩分源の特定)、家庭血圧の記録の評価、服薬状況の確認、体重・飲酒・睡眠の状況、そして必要に応じて二次性高血圧を疑う血液・尿検査——これらを順番に確認していくことで、多くの場合は「下がらない理由」が見つかります。
原因がわかれば、対処は具体的になります。塩分が多ければ食事指導、飲み忘れがあれば服薬管理の工夫、二次性高血圧が疑われれば専門的な精査、体重増加があれば減量支援——薬を変える前にできることは、実はたくさんあります。南千住・荒川区の患者さんへ
「薬を飲んでいるのに血圧が下がらない」「減塩しているつもりなのに効果がない」——そう感じている方は、ぜひ一度、その「つもり」を一緒に見直してみましょう。
当院では、食事内容の詳細な聞き取りから、家庭血圧の読み解き、二次性高血圧の精査まで、血圧が下がらない原因を丁寧に探る診療を行っています。南千住・荒川区エリアで高血圧の管理にお悩みの方はお気軽にご相談ください。★まとめ
塩分は血圧を上げるだけでなく、血管内皮を直接傷め・心臓を肥大させ・腎臓を壊す「三重の毒」です
薬を増やす前に、「なぜ下がらないか」の原因を探ることが正しいアプローチです
日本人の平均塩分摂取量は推奨量の約2倍。「減塩しているつもり」の人でも隠れ塩分が大量に潜んでいます
降圧薬が効かない主な原因は、①塩分過多 ②服薬不規則 ③白衣高血圧・測定の問題 ④二次性高血圧 ⑤体重増加・アルコールの5つです
食塩感受性は加齢とともに高まります。「若い頃は平気だった」は過去の話です
減塩と同時にカリウムを増やすことで、降圧効果はさらに高まります(腎機能低下の方は要相談)★よくあるご質問(FAQ)
Q➤ 降圧薬を飲んでいれば、減塩しなくても大丈夫ですか?
A➤ 大丈夫ではありません。ARBやACE阻害薬などの主要降圧薬は、塩分制限と組み合わせることで初めて最大の効果を発揮します。塩分過多の状態では薬の効きが著しく低下します。薬と減塩はセットで行うものです。Q➤ 1日の塩分をどのくらいに抑えれば血圧に効果がありますか?
A➤ 日本高血圧学会は6g未満を目標としています。現在10g摂取している人が6gに減らすと、収縮期血圧が平均5〜6mmHg低下するとされています。一気に減らすのが難しければ、まず現在より2〜3g減らすことを目標にしてください。Q➤ 塩分を減らすと料理が美味しくなくなりませんか?
A➤ 最初の2〜4週間は物足りなさを感じますが、味覚は徐々に慣れます。うまみ(だし・昆布・かつお)・酸味(レモン・酢)・香り(ハーブ・スパイス)を活用することで、塩分を減らしても満足感のある食事は十分可能です。Q➤ 降圧薬を飲み始めると一生やめられないのですか?
A➤ 必ずしもそうではありません。減塩・減量・運動・禁煙などの生活習慣改善によって、薬を減量または中止できるケースもあります。ただし自己判断での中止は危険です。必ず主治医と相談しながら段階的に進めてください(コラム⑭参照)。Q➤ 原発性アルドステロン症はどうやって調べますか?
A➤ 血液検査でアルドステロンとレニンの比(ARR)を測定することでスクリーニングが可能です。降圧薬が効きにくい・低カリウム血症がある・若年発症の高血圧などがある場合は、当院でも検査対応が可能です。まずはご相談ください。
参考文献
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2023(JSH2023)」
Montezano AC, et al. "Vascular Smooth Muscle Cell Differentiation to an Osteogenic Phenotype Involves NADPH Oxidase-Mediated Oxidative Stress." Current Hypertension Reports, 2014.
Schmieder RE, et al. "Dietary salt intake: a determinant of cardiac involvement in essential hypertension." Journal of the American College of Cardiology, 1996.
Appel LJ, et al. "A clinical trial of the effects of dietary patterns on blood pressure (DASH trial)." New England Journal of Medicine, 1997.
GBD 2017 Diet Collaborators. "Health effects of dietary risks in 195 countries." Lancet, 2019.
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
Calhoun DA, et al. "Resistant Hypertension: Diagnosis, Evaluation, and Treatment." Circulation, 2008.このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会