院長コラム
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院長コラム2026/02/24
マンジャロは誰に向いているのか? ― やめるとリバウンドするのか? ―
マンジャロ(チルゼパチド)は、GIP/GLP-1受容体二重作動薬という全く新しいカテゴリーの薬剤です。
GLP-1単剤との決定的な違いは、GIP受容体への同時作用にあります。
GIPは従来「肥満では効きにくいホルモン」と考えられてきました。しかし、持続的かつ高濃度で刺激することで、
β細胞のグルコース依存的インスリン分泌増強
脂肪細胞におけるインスリン感受性改善
食欲中枢への作用増強
体脂肪分布の改善
が起こることが明らかになっています。
SURPASS-2試験では、40週時点でHbA1cは最大−2.3%、体重は最大−11kg以上減少。
これは従来のGLP-1単剤を明確に上回る結果です。ここで重要なのは、単なる血糖降下ではなく、
インスリン抵抗性そのものを強く是正できる可能性がある
という点です。
糖尿病は血糖の病気ではなく、
「インスリン抵抗性+慢性炎症+血管内皮障害」の複合疾患です。私は循環器専門医として、常に“血管を守れるか”という視点で治療を考えています。
ただし、患者さんが一番気にするのはです以下です。
「私に向いているの?」
「やめたらリバウンドする?」糖尿病と循環器内科の視点で言うと、体重計の数字以上に重要なのは“血管”です。肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症が重なると、動脈硬化は加速度的に進みます。マンジャロはその連鎖を断ち切る可能性を持つ一方で、やめ方を間違えると、せっかく整えた代謝が元に戻っていくことも起こり得ます。
ここからは、臨床で実際に役立つ形で整理し解説していきたいと思います。
「どんな患者に向いているか」
マンジャロが特に適しているのは、次のような病態です。
① 内臓脂肪型肥満優位型
内臓脂肪はTNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインを分泌し、
インスリンシグナルを阻害し、血管内皮機能を低下させます。腹囲増大、脂肪肝、高TG血症を伴う患者は、
インスリン抵抗性主導型であることが多く、
マンジャロの効果が出やすい群です。② HbA1cが7.5%以上で推移する患者
SU薬やDPP-4阻害薬では限界が見えるケース。
③ 心血管リスクを多重に抱える患者
高血圧
脂質異常症
慢性腎臓病早期
喫煙歴
体重減少は血圧低下・中性脂肪低下・炎症低減につながり、
動脈硬化の進展抑制に寄与します。単に「太っている人」ではなく、
“血管イベント予備軍”にこそ適応を検討すべき薬
と私は考えています。
「やめるとリバウンドするのか」
肥満は慢性再燃性疾患です。
脂肪細胞の数は成人後ほぼ固定され、
体重減少は脂肪細胞の“縮小”にすぎません。治療を中止すると、
食欲抑制効果消失
胃排出遅延消失
インスリン抵抗性再燃
が起こりやすい。
SURMOUNT-4試験では、減量後に中止群で体重再増加が明確に認められました。
ここで重要なのは、
リバウンドは“薬の失敗”ではなく、慢性疾患の自然経過
という理解です。
高血圧の降圧薬をやめれば血圧は上がる。同じことです。
治療中に過度なカロリー摂取の制限や有酸素運動などを取り入れ、体重減少、脂肪低下、筋肉量増加などの体質改善を行うことで薬を減量➤中止してもリバウンドなくキープすることでが可能になります。
「リバウンドを防ぐための戦略」
臨床的に重要なのは“減量期間中の設計”です。
① 筋肉量維持
急速減量では除脂肪体重も減ります。
筋量低下は基礎代謝低下を招きます。私は必ず、
タンパク質摂取量
下肢筋力
歩行習慣
を確認します。
② 食行動の固定化
GLP-1作用中は自然に食事量が減ります。
この時期に「食習慣の再教育」を行わないと、
中止後に戻ります。③ 漸減設計
突然中止ではなく、
維持量→間隔延長など戦略的に調整します。肥満治療は短距離走ではなく、
マラソン型管理です。結果的にリバウンドなく長い期間を安定して体型を維持できるのです。
「当院の実際の運用」
当院ではマンジャロ開始時に必ず:
HbA1c
空腹時血糖
(Cペプチド)
AST/ALT
eGFR
脂質
BMI・腹囲
を評価します。
さらに、
心電図
必要に応じ頸動脈エコー
など、動脈硬化リスクも総合判断します。
副作用(悪心・便秘・食欲不振)については
用量漸増と食事調整で対応。そして最初から、
「いつ終了するか」ではなく
「どう維持するか」まで設計・考慮します。最後に
糖尿病は単なる「血糖の異常」ではなく、長い時間をかけて血管を傷める全身疾患です。
私は循環器内科医として、心筋梗塞や心不全、脳梗塞に至った多くの患者さんを診てきました。その背景には、長年の高血糖や内臓脂肪の蓄積があることも少なくありません。一方で、早い段階から適切に介入し、体重・血糖・血圧を整えることで、将来のイベントを防げた症例も数多く経験しています。マンジャロのような新しい選択肢も含め、治療は「始め方」と同じくらい「続け方・やめ方」の設計が重要です。不安や迷いがあれば、どうぞ一人で抱え込まずにご相談ください。
専門医として、長期的な視点で最適な道筋を一緒に考えていきます。
参考文献
Frías JP et al. N Engl J Med. 2021;385:503-515.
Jastreboff AM et al. N Engl J Med. 2022;387:205-216.
Aronne LJ et al. JAMA. 2024;SURMOUNT-4.
ADA Standards of Care 2026.
Wilding JPH et al. STEP 1 extension.
このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会