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院長コラム

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    2026/04/30

    「コーヒーは体に悪い」はもう古い──高血圧・脂質異常・糖尿病の方こそ知っておきたい、最新エビデンスが示すコーヒーの実力

    毎朝のコーヒーを「血圧が高いから」と我慢している方、いませんか?「先生に怒られそうで聞けないけど、正直やめたくない」「一応減らしてはいるけど、本当にダメなのかな……」──そんなふうに、どこか後ろめたい気持ちでコーヒーと付き合っている方は、案外多いと思います。実は私自身も、毎朝ブラックのホットコーヒーを飲むのが日課です。健康を意識してそうしているのですが、その理由は後ほどお話しします。今日お伝えしたいのは、「コーヒー=血圧に悪い」という常識が、現在の医学的エビデンスとはかなりズレているということです。むしろ適切な飲み方をすれば、高血圧・脂質異常・糖代謝の面でプラスに働く可能性がある──そういう話を、できるだけわかりやすくお届けします。ただし「何杯飲んでも大丈夫」という単純な話でもありません。大事なのは量・タイミング・淹れ方・体質の組み合わせです。ぜひ最後まで読んでみてください。

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    「コーヒーで血圧が上がる」──それ、慣れていない人の話かもしれません

    コーヒーに含まれるカフェインが一時的に血圧を上昇させる、これは事実です。でも、そこで話が終わっている方がとても多い。
    重要なのは、毎日コーヒーを飲み続けている人では、この昇圧作用がほぼ消えてしまうという点です。これは「慣れ」ではなく、体がカフェインに対して耐性をつくるためです。2012年のメタ解析(Palatini et al.)では、コーヒーを習慣的に飲んでいない人では急性の血圧上昇が確認された一方で、日常的に飲んでいる人では同じ反応がほとんど起きないことが示されています。欧州の大規模コホート研究(HARVEST Study)でも、習慣的なコーヒー摂取と高血圧発症リスクの間に有意な関連は認められませんでした。
    「でも私はコーヒーを飲むと心臓がドキドキする気がする……」という方もいると思います。それは本当に大事なサインで、無視しないでほしいのですが、それには個人差の理由があります。
    ▪ カフェインの「代謝スピード」は人によって違います
    肝臓にあるCYP1A2という酵素の働きが人によって異なり、カフェインをすばやく分解できる「速い代謝タイプ」と、時間がかかる「遅い代謝タイプ」がいます。遅いタイプの方は、習慣的に飲んでいてもカフェインが体内に長く残りやすく、動悸・血圧上昇・不眠につながりやすいことが遺伝子研究で示されています。
    「コーヒーのあとに眠れなくなる」「午後に飲むとドキドキする」という方は、このタイプの可能性があります。そういう方は量を控えめにし、飲む時間帯にも気をつけることが大切です。
    当院では、家庭血圧の記録をもとにコーヒー摂取との関係を個別に確認するようにしています。「飲んだ日と飲まない日で血圧が違う気がする」という方は、次回の受診時にぜひ教えてください。一緒に考えます。

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    糖代謝への影響──「コーヒーで血糖が上がる」も誤解です

    「コーヒーは血糖値に悪い」というイメージを持っている方も多いのですが、これも見直す必要があります。
    複数の大規模研究で、習慣的なコーヒー摂取は2型糖尿病の発症リスクを下げる方向に関連することが示されています。なかでも影響力が大きかったのが、Harvard School of Public Healthのデータを用いた解析(van Dam & Hu, 2005, JAMA)で、1日3〜4杯の習慣的摂取者では糖尿病リスクが約25〜30%低下するという結果が報告されました。
    なぜこんな効果があるのか。その鍵を握るのが、カフェインではなくクロロゲン酸という抗酸化物質です。クロロゲン酸は腸管からのブドウ糖の吸収をゆっくりにし、インスリン感受性を改善する方向に働くと考えられています。デカフェ(カフェインレス)コーヒーでも同様の効果が一部報告されていることが、「カフェインではなくクロロゲン酸が主役」という根拠のひとつになっています。
    ▪ 砂糖・シロップを入れた瞬間に話が変わります
    ここで見落としがちなのが「何を加えるか」です。ブラックで飲むコーヒーはクロロゲン酸の恩恵をそのまま受けられますが、砂糖・ガムシロップ・フレーバーシロップ・練乳・甘いフラペチーノ系のドリンクになった途端、話はまったく別になります。糖質量が跳ね上がり、血糖管理に逆効果になるケースも十分あります。
    私がブラックにこだわっているのは、まさにここに理由があります。甘くしてしまうと、コーヒー本来の健康面でのメリットがかなり薄れてしまうのです。

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    脂質への影響──「何で淹れるか」で体への影響が変わります

    コーヒーと脂質の関係は、血圧・血糖とは少し違う特徴があります。淹れ方によってLDLコレステロールへの影響が大きく変わるという点です。
    コーヒーにはカフェストールとカーウェオールという物質が含まれており、これらがLDLを上昇させることが知られています(Urgert & Katan, 1997, NEJM)。ただし、この物質はペーパーフィルターを通すことで大部分が取り除かれます。つまり、同じコーヒーでも淹れ方次第で体への影響がかなり変わってくるのです。
    淹れ方カフェストール含有量LDLへの影響ペーパードリップごく微量ほぼなしインスタント低いほぼなしエスプレッソ中程度中程度フレンチプレス高い上昇の可能性ありボイルドコーヒー(北欧式)最も高い有意な上昇
    脂質異常症で治療中の方には、ペーパーフィルターを使ったドリップコーヒーかインスタントコーヒーをお勧めしています。フレンチプレスはおしゃれで風味も豊かなのですが、脂質が気になる方にとっては少し注意が必要な飲み方です。

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    理想的な飲み方・タイミング・量──せっかく飲むなら、ちゃんと得をしましょう

    ここからが実践編です。「何となく飲んでいた」コーヒーを、少し意識するだけでより体に優しい習慣に変えることができます。
    ▪ 飲む量:1日3〜4杯が"甘い spot"
    欧州食品安全機関(EFSA)は、健康な成人のカフェイン安全摂取量を1日400mg以下としています。コーヒー1杯(150〜200ml)に含まれるカフェインはおよそ80〜100mgですので、1日3〜4杯がひとつの上限目安です。
    さらに、心血管リスクとの関係を調べた大規模なアンブレラレビュー(Poole et al., 2017, BMJ)では、1日2〜4杯の習慣的摂取者で心血管死亡リスクが最も低く、6杯を超えると逆にリスクが上がる傾向が見られました。飲みすぎは禁物、でも適量なら積極的に飲んでいい──そういうメッセージです。
    ▪ 飲むタイミング:起床直後と夕方以降は避けて
    起床直後(特に最初の1時間)は、体内でコルチゾール(覚醒ホルモン)が自然に分泌されるピークです。このタイミングでカフェインを摂ると、カフェインの効果が相殺されやすく、かつ耐性がつきやすくなるという指摘があります。起きてからコーヒーを飲むまで、30分〜1時間は間を置くのが理想的です。
    また夕方以降のコーヒーは、睡眠の質に影響を与えることがあります。カフェインの半減期はおよそ5〜6時間ですので、15時以降は控えめにするのが無難です。特にカフェイン代謝が遅いタイプの方は、昼過ぎには切り上げた方が夜の睡眠を守りやすくなります。
    私自身は、朝食後に1杯・午前中の診療の合間にもう1杯、というのが定番のパターンです。午後はなるべく飲まないようにしています。
    ▪ 飲み方:ホット・ブラックがベスト
    先ほど触れた通り、砂糖やシロップはコーヒー本来の恩恵を薄めてしまいます。ミルク(牛乳・無糖の豆乳)を少量加える程度であれば問題ありませんが、基本はブラックが一番シンプルで体にも良い飲み方です。
    またホットとアイスで比べると、ホットの方がクロロゲン酸の吸収効率がやや高いとされています。「冷たい方が好き」という方を否定するわけではありませんが、健康効果を意識するならホットが一歩リードです。
    ▪ 空腹時はできれば避けて
    空腹状態でのコーヒーは、胃酸の分泌を促して胃への刺激が強くなることがあります。食事の後や、何か軽く食べてから飲むのが理想的です。特に胃が弱い方・逆流性食道炎の傾向がある方はご注意ください。

    ※こんな方は量に注意を──個人差があることを忘れずに
    コーヒーの恩恵は多くの方に当てはまりますが、以下の方は量やタイミングに注意が必要です。

    不整脈(特に心房細動)の既往がある方:カフェインが発作の誘因になることがあります。量を控え、主治医と相談を
    動悸・不眠が起きやすい方:カフェイン代謝が遅いタイプの可能性。1〜2杯に留め、飲む時間帯を早めに
    重症高血圧でコントロール不良の方:まず血圧を安定させることが優先。状態が落ち着いてからコーヒーとの付き合い方を考えましょう
    妊娠中の方:カフェイン摂取量は1日200mg以下(コーヒー約2杯)が推奨されています

    「自分はどのくらいまでOKなのか」は、病態・内服薬・家庭血圧の状況によって変わります。当院では個別にアドバイスをお伝えしていますので、次回の受診時にお気軽にご相談ください。

    ◆まとめ
    テーマ結論血圧習慣的摂取者では昇圧作用は弱まる。カフェイン代謝が遅いタイプは要注意糖代謝クロロゲン酸の効果で糖尿病リスクが下がる可能性。砂糖を加えなければプラスに脂質淹れ方が重要。ペーパードリップ・インスタントはLDLへの影響が少ない理想の飲み方ブラック・ホット・食後・午前〜昼すぎまで・1日3〜4杯以内
    「コーヒーをやめなければ」と思い込んでいた方に、今日の記事が少し気持ちを楽にするきっかけになれば嬉しいです。ただ、「じゃあいくら飲んでも大丈夫」というわけでもないので、ご自身の状態に合った飲み方を主治医と一緒に確認してみてください。毎朝のコーヒーが、体にとっていい習慣になるよう願っています。

    ★茂澤メディカルクリニック南千住について
    当院は南千住駅から徒歩圏内にある、循環器内科を専門とするクリニックです。高血圧・脂質異常症・不整脈・動悸など、心臓・血管に関わるお悩みを専門医が丁寧に診察しています。
    「健診で数値が引っかかった」「薬を飲んでいるのに血圧が安定しない」「コーヒーや食習慣について相談したい」──どんなことでも、遠慮なくお声がけください。

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    参考文献

    Palatini P, et al. CYP1A2 genotype modifies the association between coffee intake and the risk of hypertension. J Hypertens. 2009;27(8):1594–1601.
    van Dam RM, Hu FB. Coffee consumption and risk of type 2 diabetes. JAMA. 2005;294(1):97–104.
    Urgert R, Katan MB. The cholesterol-raising factor from coffee beans. N Engl J Med. 1997;337(17):1253–1254.
    Poole R, et al. Coffee consumption and health: umbrella review of meta-analyses of multiple health outcomes. BMJ. 2017;359:j5024.
    EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies. Scientific opinion on the safety of caffeine. EFSA Journal. 2015;13(5):4102.

    このコラムの執筆者

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    院長:茂澤 幸右
    糖尿病学会所属・循環器内科専門医


    循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
    血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
    日々の外来で患者さんと向き合っています。
    このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
    外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。

    【経歴】
    日本医科大学医学部 卒業
    日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了

    【資格】
    医学博士
    循環器内科専門医
    内科認定医

    【所属学会】
    日本内科学会
    日本循環器学会
    日本心臓病学会
    日本糖尿病学会
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