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院長コラム

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    2026/05/07

    「夜9時以降に食べると太る」は本当か——食事時刻が代謝と血圧・心血管リスクに与える影響

    仕事が終わり、帰宅して夜遅くにようやく夕食を食べる。現代の働く人にとって、これは珍しいことでも、特別なことでもない。でも頭のどこかで「夜遅い食事は太る」という言葉が引っかかっている方も多いのではないでしょうか。実際のところ、これは都市伝説なのか。それとも科学的に根拠のある話なのか。

    結論から言えば、「夜遅く食べると太りやすい」は半分正しく、半分は誤解です。そしてもっと大切なことがあります。体重の変化よりも先に、血圧と心血管リスクに影響が出ているという事実です。
    循環器内科専門医として、この点をきちんとお伝えしたいと思います。

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    体内時計と食事タイミング——なぜ「夜食は太りやすい」のか

    「夜遅く食べると太る」という話の根拠は、カロリーの多さでも、意志の弱さでもありません。体内時計(概日リズム、サーカディアンリズム)の仕組みにあります。私たちの体には、約24時間周期で動く生体リズムが刻まれています。このリズムは脳だけでなく、肝臓・脂肪組織・膵臓といった代謝に関わるすべての臓器にも存在しています。そして重要なのは、食事がこのリズムの「同調因子」になっているという点です。夜間、体は本来「休息モード」に入ります。この時間帯はインスリン感受性が低下し、同じ糖質を食べても血糖値が上がりやすく、脂肪として蓄積されやすい状態になっています。

    2025年に発表されたナラティブレビュー(Reytor-González et al., Nutrients, 2025)は、夜間の食事が概日リズムと代謝恒常性に与える影響を包括的にまとめ、脂質代謝の乱れ・エネルギーバランスの崩壊との関連を指摘しています。また、2024年のレビュー(Peters et al., Frontiers in Endocrinology, 2024)も、体内時計と代謝の相互作用において食事のタイミングが独立したリスク因子として機能することを示しています。
    ▪ 夜間はインスリン感受性が低下し、血糖処理効率が下がる
    ▪ 脂肪分解より脂肪合成が優位になりやすい時間帯
    ▪ 同じカロリーを食べても、夜のほうが体脂肪に変換されやすい「太りやすい」は体質や意志の問題ではなく、時刻という生理的条件の問題です。

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    夜遅い食事が血圧を上げる——循環器内科専門医として注目するデータ

    ここからが、私が循環器内科医として専門医として特に伝えたい部分です。
    健康な人の血圧は、夜間に日中より10〜20%程度低下します。これを「ディッパー型」と呼び、血管と心臓が十分に休める正常な状態です。ところが一部の人では、夜間になっても血圧が下がらない——これが「ノンディッパー型」と呼ばれる状態で、脳卒中・心筋梗塞・腎障害のリスクが有意に高まることが知られています。

    では、夜遅い食事はこれとどう関係するのか。
    食事は交感神経を活性化し、消化のために血圧を一時的に上昇させます。これが就寝直前に起きると、本来下がるべき夜間血圧が高止まりしやすくなります。2024年に発表された系統的レビュー(Patterson et al., Journal of Hypertension, 2024)は、食事時刻が遅いほど血圧が高いという関連を多変量モデルで示し、食事タイミングが独立した血圧上昇因子になり得ることを報告しています。 PubMed Central
    さらに見逃せないのが、心血管疾患リスクとの直接的な関連です。

    フランスの大規模コホート研究 NutriNet-Santé(103,389人、中央値7.2年追跡)では、夜9時以降に最後の食事をとる習慣が心血管疾患・脳血管疾患の発症リスク上昇と関連することが示されました(Palomar-Cros et al., Nature Communications, 2023)。 nih「ただ太りやすい」という話ではないことが浮かび上がります。
    日本国内のデータとしては、大阪大学を中心とした Japan Collaborative Cohort Study(71,838人、19年追跡)があります。夜8時以降の夕食習慣と出血性脳卒中死亡リスクの関連が検討されており nih、日本人においても食事時刻の影響は無視できないことを示しています。

    ▪ 夜遅い食事→交感神経活性化→夜間血圧の高止まり
    ▪ ノンディッパー型は脳卒中・心筋梗塞リスクが高い
    ▪ 大規模コホートで「夜遅い夕食=心血管疾患リスク上昇」が確認されている

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    何時まで」より「何を・どう」——現実的な食事の整え方

    ここまで読んで、「でも仕事上、どうしても遅くなる」と感じた方へ。「夜9時以前に食べ終えること」は理想ですが、それが難しい現実があることも十分わかっています。大切なのは完璧な時刻管理よりも、できることを積み重ねることです。
    ①帰宅前に「つなぎ食い」を活用する
    夜9時以降にどか食いするより、夕方5〜6時に軽くおにぎりや果物を食べておき、帰宅後の夕食量を減らす方法が有効です。これを「分食」といい、胃腸への負担軽減と血糖スパイクの抑制、夜間の食事量削減を同時に実現できます。
    ②夜の食事は「消化の軽いもの」を選ぶ
    脂肪分の多い食事は消化に時間がかかり、交感神経を長時間刺激します。夜遅い食事では、豆腐・白身魚・野菜中心の軽めの内容にすることで、食後の血圧上昇を抑えやすくなります。
    ③食べ終わりから就寝まで最低2時間を確保する
    食後すぐに横になると、胃酸の逆流リスクに加えて、消化による血圧上昇が夜間にそのまま持続します。食後2時間以上の間隔を意識するだけでも、夜間血圧の安定に寄与します。
    ④朝食・昼食のカロリー比率を上げる
    「夜だけ食べ過ぎている」という食パターンを変えることが根本です。食事エネルギーを朝・昼に多く、夜に少なくという時間分配に整えることが、体重・血圧の両方に効果的であることが研究で示されています。

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    当院での取り組みと患者さんへのメッセージ

    茂澤メディカルクリニック南千住では、血圧管理においてお薬の調整だけでなく、「何時に食べているか」「夜食の内容は何か」という食事時刻の聴取を診察の中で行っています。
    実際に、降圧薬を服用していても夜間血圧がうまくコントロールされないケースで、食事時刻や夕食の内容を見直すことで改善が見られることがあります。24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の結果と食事日誌を照らし合わせると、夜遅い食事との関連が見えてくることも珍しくありません。
    「夜9時以降は食べない」という目標を掲げることは大切ですが、それを守れなかった日に自分を責める必要はありません。平均として夕食が早くなっていけば、それが血管と心臓を守ることにつながります。
    一人で抱え込まず、食事の習慣についても気軽にご相談ください。生活の中で続けられるやり方を、一緒に考えていきましょう。

    よくある質問(FAQ)
    Q1. 夜9時以降に食べると、具体的にどのくらい太りやすくなりますか?

    摂取カロリーが同じでも、夜間は体内時計の影響でインスリン感受性が低下しており、脂肪として蓄積されやすい状態です。ただし「何時間で何kg増える」という単純な換算はなく、食事内容・量・運動習慣との複合的な影響で決まります。重要なのは「時刻だけが問題ではない」という点です。

    Q2. 夜遅い食事は血圧に具体的に何mmHg影響しますか?

    個人差が大きいため一律の数値は言えませんが、2024年のレビュー研究(Journal of Hypertension)では食事時刻が遅いほど血圧が高い傾向が多変量モデルで確認されています。夜間血圧が本来の10〜20%の低下幅に達しない「ノンディッパー型」になりやすく、これが心血管リスクに直結します。

    Q3. どうしても帰宅が夜10時以降になります。どうすればよいですか?

    夕方5〜6時に軽食(おにぎり・バナナ・ゆで卵など)をとり、帰宅後の夕食量を半分程度に減らす「分食」が有効です。また、帰宅後の夕食は豆腐・白身魚・野菜中心にし、脂質の多いものは避けると消化器・血圧への影響を減らせます。

    Q4. 夜食をやめたら、降圧薬の量を減らせますか?

    食事時刻の改善が血圧低下に寄与するケースはありますが、降圧薬の減量・中断は必ず主治医の判断のもとで行ってください。自己判断での減薬は危険です。当院では食事習慣の改善状況を確認しながら、血圧測定値をもとに薬の調整を検討しています。

    Q5. 夜遅い食事と脳梗塞・心筋梗塞は本当に関係しているのですか?

    はい、大規模研究のデータがあります。フランスの10万人超のコホート研究(NutriNet-Santé, Nature Communications, 2023)では、夜9時以降の夕食習慣が心血管疾患・脳血管疾患の発症リスク上昇と関連することが示されています。日本人を対象にした71,838人の研究でも、夜遅い夕食と脳卒中死亡リスクの関連が報告されています。

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    参考文献

    Palomar-Cros A, et al. Dietary circadian rhythms and cardiovascular disease risk in the prospective NutriNet-Santé cohort. Nature Communications. 2023;14:7899.
    Peters B, Vahlhaus J, Pivovarova-Ramich O. Meal timing and its role in obesity and associated diseases. Frontiers in Endocrinology. 2024;15:1359772.
    Raji OE, et al. Chrononutrition and Cardiometabolic Health. Nutrients. 2024;16(14):2332.
    Patterson F, et al. Association between Time-of-Day for Eating and Blood Pressure. Journal of Hypertension. 2024;42(6):951-960.
    Tang J, et al. Supper Timing and Cardiovascular Mortality: The Japan Collaborative Cohort Study. Nutrients. 2021;13(10):3389.
    Reytor-González C, et al. Chrononutrition and Energy Balance. Nutrients. 2025;17(13):2135.
    Duez H, Staels B. Circadian Disruption and the Risk of Developing Obesity. Current Obesity Reports. 2025.

    このコラムの執筆者

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    院長:茂澤 幸右
    糖尿病学会所属・循環器内科専門医


    循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
    血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
    日々の外来で患者さんと向き合っています。
    このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
    外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。

    【経歴】
    日本医科大学医学部 卒業
    日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了

    【資格】
    医学博士
    循環器内科専門医
    内科認定医

    【所属学会】
    日本内科学会
    日本循環器学会
    日本心臓病学会
    日本糖尿病学会
    医師イラスト
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