院長コラム
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院長コラム2026/05/25
院長も実践!【16時間ダイエットの効果と注意点】
少し、個人的な話から始めさせてください。
私自身、16時間断食を実践しています。朝食は摂らず、昼の12時頃に最初の食事をとり、夜8時頃に食べ終える。この「昼〜夜の8時間ウィンドウ」を基本パターンとして、しばらく続けています。
始めたきっかけは、外来でした。「16時間断食って効果ありますか?」と聞いてくれる患者さんが増えてきて、「自分で試してみないと正直なことは言えないな」と思ったのです。
実際にやってみて感じたのは、体重の大きな変化よりも、午前中の集中力と診察中の頭の冴えが上がったという変化でした。朝食を食べていた頃は、食後の軽い倦怠感が午前の外来に影響することがあったのですが、今はそれがありません。
ただ、だからといって「みなさんにもぜひやってみてください」とは言えないのが、正直なところです。外来では、断食を始めてから血圧が上がってしまった方や、夕方に動悸が出た方にも出会っています。自分がうまくいっているからといって、全員に同じことを勧めるのは医師として誠実ではありません。
この記事では、院長自身の実践経験と、循環器内科・生活習慣病の専門医としての医学的な視点を合わせてお伝えします。「効果があるか」と「自分にとって安全か」の両方を、ご自身で判断できるようになることを目指しています。
16時間断食とは何か――「食べない」ではなく「いつ食べるか」の工夫
16時間断食(時間制限食:Time-Restricted Eating)は、1日24時間のうち16時間を絶食の時間とし、残り8時間の中に食事をまとめる「16:8法」が基本的なやり方です。カロリーを細かく計算したり、特定の食品を禁止したりする必要はなく、「何を食べるか」よりも「いつ食べるか」を変えるというシンプルな発想です。
▪ 私が選んだパターン:朝食抜き・昼〜夜型
私の場合、起床後は水かブラックコーヒーのみで診療を始め、昼休みに初めて食事をとります。夜は家族との夕食がメインで、夜8時以降は何も口にしないというリズムです。「朝食を我慢している」というよりも、だんだんと「朝は飲み物だけで十分動ける」という感覚に変わっていきました。
▪ なぜ16時間なのでしょうか
食後は血糖値とインスリンが上がり、体は「エネルギーを蓄える時間」に入ります。食後4〜6時間でインスリンが落ち着き、さらに時間が経つと、今度は蓄えた脂肪をエネルギーとして使う「脂肪燃焼の時間」が始まります。この切り替えが十分に機能するには12〜16時間の絶食が必要だというデータが蓄積されてきました。20時間以上になると別のリスク(後でお伝えします)が出てきやすいため、16時間はバランスの取れた設定として研究されている数字です。
▪ 睡眠時間を活用できます
「16時間も我慢するの?」と思われた方、安心してください。睡眠時間(7〜8時間)がそのまま絶食時間に含まれます。夜8時に食べ終えて、翌日の昼12時に食事をとれば、睡眠中の8時間+起床後4時間で16時間になります。これが私のパターンでもあります。
16時間断食の科学的に見た効果
時間制限食の研究は2010年代から大きく増えており、現在ではある程度信頼できるデータが揃ってきました。ただし、すべての期待に応えてくれる「魔法の食事法」ではありません。効果の実態と限界を正確に知ることが、うまく活用するための第一歩です。
▪ 体重・体脂肪への効果
2020年に医学誌New England Journal of Medicineに掲載された総説(de Cabo & Mattson)では、時間制限食がカロリー制限なしでも体重減少をもたらす可能性が示されています。一方で2022年の同誌の研究では、同じカロリーを摂っている比較グループと比べると、時間制限食の追加的な体重減少効果は限定的だったという結果も出ています。
つまり、16時間断食で痩せる主な理由は「食べられる時間が短くなることによる自然なカロリーの減少」であり、絶食時間そのものに特別な「脂肪を燃やす魔法」があるわけではない、というのが現時点での正直な評価です。
▪ 血糖・インスリン感受性への効果
こちらはより一貫したポジティブなデータがあります。Cell Metabolism(2019年、Sutton et al.)の研究では、前糖尿病の方を対象に5週間の時間制限食を行った結果、カロリーを変えずにインスリン感受性の改善・血圧の低下・酸化ストレスの低下が認められました。
▪ 集中力・体調面への影響
私自身が一番実感しているのがここです。断食中は脳がケトン体(脂肪から作られるエネルギー源)を一部使うようになり、これが集中力の維持に関わるという研究データがあります。「朝食を食べないと頭が働かない」という通説は、実は習慣への依存が大きく、体が慣れてくると逆転する方が多いのです。
正直にお伝えすると、私の場合、体重の大きな変化はありませんでした。それよりも、午前の診察中の頭の明瞭さ、「空腹だけど快調」という感覚が続いていること、食事のことを考える時間が減って仕事に集中しやすくなったこと、これらが継続の理由になっています。ただし最初の2週間は、昼前にけっこうな空腹感と軽い頭痛がありました。これを「慣れの時期」と思って乗り越えられるかどうかが、最初の分かれ道だと感じています。
注意してほしい「落とし穴」――循環器内科専門医として特に伝えたいこと
私自身がうまくいっているからこそ、かえって「向いていない方がいる」ということをしっかり伝えたいと思います。SNSやネット上にある16時間断食の情報の多くは、健康な20〜30代向けのものが、高血圧・糖尿病・不整脈を抱えた50〜70代の方にそのまま広まっている状況があります。ここは慎重に読んでいただければと思います。
▪ 【注意点1】血圧が上がったり下がったりしやすくなる場合があります
長時間の絶食では、交感神経系が活性化されます。「エネルギーを得るために体が覚醒する」という自然な反応なのですが、もともと血圧が高い方では、この働きがさらに血圧を押し上げてしまうことがあります。特に朝食を抜くパターン(私が実践しているパターン)では、朝に分泌が増えるコルチゾール(ストレスホルモン)と交感神経の影響が重なり、「早朝高血圧」が悪化するケースがあります。
私自身は血圧が正常なので問題ありませんが、外来では断食を始めてから血圧が160台になってしまった方に複数お会いしています。
▪ 【注意点2】お薬との相互作用に気をつけてください
外来で一番多くいただく相談がこれです。「朝食を抜いてもいつも通り薬を飲んでいいですか?」
これは必ず主治医にご確認ください。朝食なしで降圧薬を服用すると、薬の吸収パターンが変わり、血圧が下がりすぎてめまいやふらつきが起きることがあります。また、SU薬(グリメピリド等)やインスリンを使っている糖尿病の方が断食をすると、重篤な低血糖を起こす危険があります。SGLT2阻害薬を使用中の方では、長期の断食でケトアシドーシスのリスクが高まるという報告も出てきています。
▪ 【注意点3】不整脈への影響
2024年に米国心臓協会(AHA)の学術集会で発表されたデータが注目を集めました。1万7,000人以上を約8年追跡した観察研究で、食事ウィンドウが8時間未満だった方は通常の食事パターンの方と比べて心血管死亡リスクが高かったという結果でした。観察研究なので因果関係を証明するものではありませんが、「断食は心臓に無条件に良い」と言い切れない根拠として受け止める必要があります。
長時間絶食によるカリウム・マグネシウムなどの電解質の変動が、心臓の電気的な活動に影響する可能性があります。もともと心房細動がある方は、この点で特に慎重にお考えください。
▪ 【注意点4】筋肉が落ちやすくなります
たんぱく質が十分に摂れないと、脂肪だけでなく筋肉も落ちていきます。筋肉量が減ると基礎代謝が下がり、かえってリバウンドしやすい体になってしまいます。60代以上の方や、もともと筋肉量が少ないと感じている方は、断食の前に食事の質(特にたんぱく質の充足)を見直すことの方が優先事項かもしれません。
▪ 【注意点5】食べていい時間の「反動食い」に注意
「16時間は耐えられたけど、食べていい時間になった途端に食べすぎてしまう」というお話を外来でよく聞きます。断食の恩恵は、食事ウィンドウ内での暴食で一気に消えてしまいます。「断食したから、食べていい時間は何を食べてもいい」は残念ながら誤りです。
実践を検討している方への具体的なアドバイス
ここまで読んでいただいて、「やっぱり危険なのかな」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。そうではありません。適切な状態の方が、正しいやり方で取り組めば、生活習慣の改善に有効な手段になり得ます。私自身がその実践者です。
▪ 比較的取り組みやすい方の目安
・血圧が正常〜軽度高値(140/90mmHg未満)で、お薬なしで管理できている
・血糖値が正常範囲で、糖尿病の薬やインスリンを使っていない
・不整脈の診断がない、または安定してコントロールされている
・BMIが25以上で、体重を減らすことが医学的に望ましい状態にある
・腎機能・肝機能が正常範囲内▪ まずご相談をお勧めする方
・降圧薬・血糖降下薬・抗不整脈薬・抗凝固薬のいずれかを服用中の方
・空腹時血糖が110mg/dL以上、またはHbA1cが6.0%以上の方
・収縮期血圧が140mmHgを超えることがある方
・心房細動・狭心症・心不全の既往や治療中の方
・60歳以上でフレイルやサルコペニアが気になる方▪ 当院でできること
茂澤メディカルクリニック南千住では、「16時間断食を始めてみたい」という方に対して、現在の血圧・血糖・心電図のデータをもとに個別のリスク評価をしています。服用中のお薬との相互作用を確認した上で、必要であれば服薬タイミングの調整もご提案しています。「院長がやっているなら相談しやすい」という気持ちで来てくださる方も大歓迎です。
▪ 安全に始めるための5ステップ
ステップ1:まず12時間断食を2週間続けてみる
夜8時以降は食べない、朝は起床後2時間は何も口にしない、というところから始めてみてください。いきなり16時間に挑戦するのではなく、体を少しずつ慣らしていく方がうまくいきます。ステップ2:断食中は水・お茶・ブラックコーヒーで過ごす
この3つは絶食状態を崩しません。人工甘味料入りの飲み物はインスリン反応を誘発する可能性があるという研究もあり、できれば避けた方が無難です。私はブラックコーヒーを午前中に2杯飲んで空腹をやり過ごしています。ステップ3:食事ウィンドウ内でたんぱく質を意識して増やす
昼食・夕食の最初に、肉・魚・卵・豆腐などのたんぱく質から食べ始める習慣をつけると、筋肉量の低下予防と食後の血糖スパイク抑制の両方に効果的です。ステップ4:カリウムとマグネシウムを食事で補う
カリウム(バナナ・納豆・ほうれん草)やマグネシウム(ナッツ・豆類・海藻)を意識して毎日の食事に取り入れてください。電解質を補うことは、不整脈の予防という観点からも大切です。ステップ5:2週間、朝と夜の血圧を記録する
始めた後は、家庭血圧の記録を続けてください。130/80mmHgを超える状態が続く場合、または動悸・めまいが出た場合は、いったん中断してご相談ください。=======
まとめ――「院長が実践しているから安全」ではなく、「一緒に考えましょう」
私が16時間断食を続けているのは、自分に合っていると感じているからです。午前中の集中力の変化、胃腸の軽さ、食事についてあれこれ考える時間が減ったこと――これらは本当に実感しています。ただ、私は血圧も血糖値も正常で、心臓に基礎疾患がなく、お薬も飲んでいません。この条件が整っているからこそ実践できています。高血圧の治療中の方、糖尿病の方、心房細動のある方に「同じようにやってみてください」とは、やはり言えません。
「院長がやっているなら自分も大丈夫だろう」という判断は、少し危険かもしれません。でも「院長がやっているなら、聞きやすい」という気持ちで来てくださるなら、ぜひそうしてください。南千住・荒川区・北千住近隣で、この食事法に興味がある方は、まずご自身の体の状態を一緒に確認しましょう。
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FAQ(よくある質問)
Q1. 院長はどんなやり方で16時間断食をしていますか?➤ 昼12時頃〜夜8時頃の8時間ウィンドウを基本にしています。朝食は摂らず、起床後はブラックコーヒーと水のみです。外来のスケジュールとも自然に合っており、午前中の集中力が上がったと感じています。最初の2週間は空腹感と軽い頭痛がありましたが、その後は慣れました。
Q2. 血圧の薬を飲んでいますが、16時間断食はできますか?
➤ まず主治医にご相談ください。朝食なしで降圧薬を服用すると、血圧が下がりすぎてめまいやふらつきが起きることがあります。薬の種類によっては服薬タイミングを調整できる場合もありますので、当院でもご相談いただけます。
Q3. 糖尿病の治療中ですが、断食中に低血糖になりませんか?
➤ SU薬(グリメピリド等)やインスリンを使っている方は、低血糖のリスクがあり、ご自身の判断での断食は危険です。SGLT2阻害薬を使っている方ではケトアシドーシスの報告もあります。担当医へのご相談を先にしていただくことをお勧めします。
Q4. 朝食を抜くパターンと夕食を早めるパターン、どちらが安全ですか?
➤ 研究上は「朝〜昼に食べて夕以降を絶食にする」朝型パターンの方が、血糖・血圧への良い効果が出やすい傾向があります。高血圧がある方は、朝食を抜くよりも夕食を早める形の方が安全かもしれません。私自身は朝食抜きパターンですが、血圧が正常なため問題が出ていない状況です。
Q5. 断食中に頭痛や倦怠感が出ました。続けて大丈夫ですか?
➤ 開始後1〜2週間の軽い頭痛やだるさは、多くの方に起こる「慣れの時期」の症状です。私自身も同じように感じた時期がありました。ただし、めまい・動悸・著しい血圧上昇を伴う場合はすぐに中断してください。症状が続く場合はご相談ください。
参考文献
de Cabo R, Mattson MP. Effects of Intermittent Fasting on Health, Aging, and Disease. N Engl J Med. 2019;381(26):2541-2551.
Liu D, et al. Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss. N Engl J Med. 2022;386(16):1495-1504.
Sutton EF, et al. Early Time-Restricted Feeding Improves Insulin Sensitivity, Blood Pressure, and Oxidative Stress Even without Weight Loss in Men with Prediabetes. Cell Metab. 2018;27(6):1212-1221.
Lowe DA, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.
American Heart Association Scientific Sessions 2024. Abstract: Restricted eating windows and cardiovascular outcomes — observational cohort data.
日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2023(JSH2023). ライフサイエンス出版; 2023.
日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂; 2024.このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会