院長の生活習慣病コラム
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院長の生活習慣病コラム2026/09/14
ST低下・左室肥大・脚ブロック・期外収縮——健診心電図のよくある所見と対応について循環器専門医が一つひとつ解説する
はじめに——「心電図に異常があります」の一言が引き起こす不安と、放置という選択肢の危うさ
「先生、健診で心電図異常と言われたんですが、これって大丈夫ですか?」
この質問を外来で受けない週はありません。患者さんが手に持つ健診結果には、様々なコメントが書かれています。「ST低下」「左室肥大」「右脚ブロック」「期外収縮」「要精査」「要観察」——これらの言葉は、医療者には馴染み深いものですが、患者さんにとっては何が書いてあるのかさっぱりわからない、得体の知れない言葉の羅列です。
そしてこの「わからなさ」が、二つの極端な反応を生み出します。
一つは過剰な不安——「心臓が悪いのではないか」「突然死するのではないか」と眠れなくなるほど心配してしまうケース。もう一つは無関心な放置——「何年も前から同じことを言われているから大丈夫だろう」「症状がないから問題ない」と何年間も精査を受けないケース。
どちらも正しい対応ではありません。心電図の所見には、「すぐに精査が必要なもの」「定期的な経過観察が必要なもの」「ほぼ問題ないもの」が混在しています。この仕分けをせずに一律に「異常です」と告げる健診結果のコメントが、患者さんの混乱を招いているのが現状です。
私は循環器内科専門医として20年近く、健診で心電図異常を指摘された患者さんの精査・管理を続けてきました。今回は、健診心電図でよく見つかる所見を一つひとつ丁寧に解説し、「あなたの所見は何を意味するのか」「どう対応すべきか」を具体的にお伝えします。
健診心電図の基本——「異常なし・要観察・要精査」の意味と、安静時心電図が拾えないもの
心電図とは何を記録しているのか
心電図は、心臓が収縮するたびに発生する微弱な電気信号を体表面から記録する検査です。健診で行われる安静時12誘導心電図は、12の方向から心臓の電気活動を同時に捉え、約10秒間の波形を記録します。
心電図の波形は、P波(心房の収縮)・QRS波(心室の収縮)・T波(心室の回復)という要素で構成されています。これらの波の形・高さ・幅・間隔・向きに異常があると「心電図異常」と判定されます。
健診コメントの「要観察」「要精査」は何が違うのか
健診の心電図結果には、施設によって異なる表記がありますが、大まかに以下の分類が使われます。
異常なし(正常): 記録された波形に明らかな異常が認められない状態。ただし「正常」は「心臓に問題がない」を意味するわけではありません(後述)。
要観察: 異常所見はあるが、直ちに治療・精査が必要なレベルではなく、定期的な健診・経過観察が推奨される状態。
要精査(要医療機関受診): 精密検査が必要な所見が認められる状態。放置せず、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
問題なのは、この「要精査」と書かれた結果を持ちながら、何年も医療機関を受診しない方が一定数いることです。私の外来でも「3年前から要精査と書かれているけれど、症状がないから来なかった」という患者さんに定期的に出会います。症状がないことは「異常がない」ことを意味しません。
安静時心電図が「拾えないもの」を知っておく
健診で行われる安静時心電図には、重要な限界があります。詳しくは「心臓と血管の検査、徹底解説!」でも解説していますが、安静時心電図が捉えられないものとして以下が挙げられます。
①労作時(運動時)にのみ出現する狭心症: 安静時には正常でも、階段を上ったり早歩きをしたりすると胸が締め付けられる「労作性狭心症」は、安静時心電図では発見できません。運動負荷心電図・冠動脈CTによる評価が必要です。
②発作性(たまにしか出ない)不整脈: 心房細動・発作性上室性頻拍・期外収縮は、心電図記録の10秒間にたまたま出現しなければ記録されません。「動悸があるのに心電図は正常」という方には、24時間ホルター心電図が必要です(「心臓と血管の検査、徹底解説!」参照)。
③心臓の構造的異常: 弁膜症・心筋症・心嚢液などの構造的な問題は、心電図だけでは評価できません。心臓エコーが必要です。
つまり「健診の心電図が正常だった」は「心臓に全く問題ない」と同義ではありません。症状がある方・リスク因子が多い方は、心電図が正常でも追加評価が必要なことがあります。
危険度「高」の所見——見逃すと命に関わる心電図コメント
①ST低下(ST depression)
所見の意味:
ST部分とは、QRS波(心室収縮)とT波(心室回復)の間の部分です。ST低下は、心臓の筋肉(心筋)への血流が低下しているサイン(心筋虚血)を示す可能性があります。危険度:高
ST低下が心筋虚血を示している場合、背景に冠動脈の狭窄(狭心症)または閉塞(心筋梗塞)がある可能性があります。放置すれば心筋梗塞に移行するリスクがあります。
ただし注意が必要なのは、ST低下が全て危険というわけではないことです。
以下のような「偽陽性」のST低下も存在します。
・過呼吸・体位変換・食後に起きる一時的なST変化
・左室肥大に伴うST変化(「左室肥大パターン」と呼ばれる)
・女性に多い非特異的なST変化
・デジタリス(心臓薬)の影響このため「ST低下」という所見だけで狭心症と断定することはできませんが、いずれにしても精査が必要です。
当院での対応:
まず問診で胸痛・息切れ・動悸などの症状を確認します。症状がある場合は緊急性が高く、当日の心臓エコー・血液検査(トロポニン・BNP)を行います。症状がない場合でも、運動負荷試験または冠動脈CTによる精査が必要です。冠動脈CTはCVIC(心臓血管研究所付属病院)または日本医科大学付属病院へ優先紹介し、迅速に検査につなげます(「心臓と血管の検査、徹底解説!」参照)。
「ST低下と言われたけれど症状がないから放置していた」——外来でこう言われるたびに、私は「よく今まで大丈夫だったな」と安堵しながら、同時に背筋が凍ります。
②ST上昇(ST elevation)
所見の意味:
ST上昇は、急性心筋梗塞の最も重要な心電図所見です。冠動脈が完全に閉塞し、心筋への血流が途絶えた状態(急性心筋梗塞)で典型的に見られます。危険度:最高(緊急)
急性心筋梗塞に伴うST上昇は、医療の緊急事態です。一刻も早いカテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)が必要であり、「発症から90分以内」の再灌流が予後を大きく左右します。
ただし健診でST上昇が発見された場合、必ずしも緊急事態ではありません。以下のような「良性」のST上昇も存在します。
・早期再分極(Early repolarization): 若い健常な男性に多い正常亜型。従来は「良性」とされていましたが、近年一部の早期再分極パターンは致死性不整脈との関連が報告されており、注意が必要です。
・Brugada型心電図: 右側胸部誘導(V1・V2)に特徴的なST上昇を示す所見。突然死との関連が知られており、要精査です。
・心膜炎: 心臓を包む袋(心膜)の炎症でST上昇が出ることがあります。
当院での対応:
ST上昇が健診結果に記載されていた場合、症状の有無を確認した上で緊急性を評価します。胸痛・息切れ・冷汗などの症状を伴う場合は救急対応です。症状がない場合でも、当日の心臓エコー・12誘導心電図の確認・血液検査が必要です。Brugada型が疑われる場合は専門施設への紹介を行います。③心房細動(Atrial fibrillation:AF)
所見の意味:
心房細動は、心房が毎分350〜600回という異常な高頻度で不規則に収縮する不整脈です。心電図では、P波が消失し、基線が細かく揺れる「f波」が出現し、RR間隔(心拍のリズム)が完全に不規則になります。危険度:高
心房細動の最大のリスクは、脳梗塞です。心房が正常に収縮せず血液が淀むと、心房内(特に左心耳)に血栓が形成されます。この血栓が剥がれて脳の血管を詰まらせると、心原性脳塞栓症という重篤な脳梗塞を引き起こします。
心房細動に伴う脳梗塞は、他の原因による脳梗塞と比較して梗塞巣が大きく、重篤な後遺症を残すことが多いとされています。
心房細動患者の脳梗塞リスクは、CHA₂DS₂-VAScスコアという指標で評価します。
因子 点数
心不全(C) 1点
高血圧(H) 1点
年齢75歳以上(A₂) 2点
糖尿病(D) 1点
脳卒中・TIA既往(S₂) 2点
血管疾患(V) 1点
年齢65〜74歳(A) 1点
女性(Sc) 1点合計2点以上(女性は3点以上)の場合、抗凝固薬(ワーファリン・DOACs)による脳梗塞予防が強く推奨されます。
当院での対応:
健診で心房細動が発見された場合、当日に12誘導心電図を確認し、持続性か発作性かを評価します。血液検査(甲状腺機能を含む)・心臓エコーで原因・合併症を評価します。CHA₂DS₂-VAScスコアに基づいて抗凝固療法の要否を判断し、必要に応じてホルター心電図で不整脈の詳細を評価します。心房細動は「たまにしか出ない」発作性のケースも多く、健診の10秒間の心電図で偶然発見されるケースが実際にあります。私の外来でも、「健診で初めて心房細動と言われた」という患者さんが一定数います。そのほぼ全員が「動悸は感じたことがない」とおっしゃいます。症状がない心房細動でも、脳梗塞リスクは同等に高いことを知ってください。
④QT延長(Long QT)
所見の意味:
QT間隔は、心室が収縮を始めてから回復するまでの時間を示します。QT延長は、この回復時間が異常に延長した状態で、致死性不整脈(torsades de pointes:トルサード・ドゥ・ポワント、心室細動)のリスクと関連します。QTc(心拍数補正QT間隔)が男性0.45秒以上・女性0.46秒以上でQT延長と判定されます。
危険度:中〜高(原因による)
QT延長には以下の原因があります。
先天性QT延長症候群: 遺伝的なイオンチャネルの異常。若年者の突然死・運動中の失神・溺死の原因になることがあります。家族歴の確認が重要です。
薬剤性QT延長: 多くの薬剤がQTを延長させます。代表的なものに抗不整脈薬・抗生物質(マクロライド系・フルオロキノロン系)・抗精神病薬・抗アレルギー薬などがあります。服用中の薬剤の確認が必須です。
電解質異常: 低カリウム血症・低マグネシウム血症でQTが延長します。
当院での対応:
血液検査で電解質(カリウム・マグネシウム・カルシウム)・甲状腺機能を確認します。服薬内容を詳細に確認し、QT延長を引き起こす薬剤がないか確認します。先天性が疑われる場合・QTcが著しく延長している場合は専門施設への紹介を行います。⑤陳旧性心筋梗塞の疑い(Possible old MI)
所見の意味:
「異常Q波」と呼ばれる心電図所見が、過去に心筋梗塞を起こした部位に出現します。患者さん本人が全く気づかないまま心筋梗塞を起こしていた「サイレント心筋梗塞(無症候性心筋梗塞)」が、健診で初めて発見されるケースです。危険度:高
サイレント心筋梗塞は、糖尿病患者に特に多いとされています。糖尿病性神経障害により痛みを感じにくくなっているため、心筋梗塞が起きても胸痛を自覚しないことがあります(「糖尿病と足の深い関係」参照)。
過去に心筋梗塞を起こした人は、再梗塞・心不全のリスクが高く、二次予防(抗血小板薬・スタチン・降圧薬・禁煙)が必要です。
当院での対応:
心臓エコーで左室壁運動の異常(心筋梗塞部位の壁運動低下)を確認します。血液検査でBNP・脂質・血糖を評価します。冠動脈の残存狭窄評価のために冠動脈CTまたはカテーテル検査(専門施設紹介)を検討します。
危険度「中〜要確認」の所見——状況によって対応が変わる心電図コメント
①左室肥大(Left ventricular hypertrophy:LVH)
所見の意味:
左室肥大は、心臓の左室の筋肉壁が肥厚した状態を示す心電図所見です。高血圧が長期間続くと、心臓は高い血圧に抗って血液を送り出し続けるために筋肉を肥大させます。これが左室肥大の最も多い原因です(「更年期と高血圧の関係について」参照)。心電図での左室肥大の判定には、Sokolow-Lyon基準(SV1+RV5またはRV6≧35mm)などが使われます。
危険度:中〜高(背景疾患による)
左室肥大は単なる「心臓が大きい」というだけでなく、高血圧による「標的臓器障害」のサインです。左室肥大があると、心不全・致死性不整脈・突然死のリスクが上昇します。
左室肥大を持つ高血圧患者は、持たない高血圧患者と比較して、心血管イベントリスクが2〜3倍高いとされています。
当院での対応:
心臓エコーで左室壁厚・左室重量・拡張能を評価します。左室肥大の原因となっている高血圧のコントロール強化が最優先です。ARB・ACE阻害薬などの左室肥大退縮効果のある降圧薬の選択を検討します。血圧管理を徹底することで、左室肥大は改善(退縮)することが複数の試験で示されています。「左室肥大と言われたけれど、血圧の薬を飲んでいるから大丈夫だろう」——このような患者さんが外来に来ると、私は血圧手帳を必ず確認します。家庭血圧が140mmHgを超えたままであれば、薬の種類・量の見直しが必要です(「病院の血圧より、朝起きてすぐの血圧の方がずっと大事です」参照)。
②右脚ブロック(Right bundle branch block:RBBB)
所見の意味:
心臓には電気信号を伝える「刺激伝導系」があります。右脚ブロックは、右心室への伝導路(右脚)が障害を受けているために、右心室への電気信号の伝達が遅れる状態です。心電図ではV1誘導でのRSR'パターン(ウサギの耳のような波形)と、QRS幅の延長(0.12秒以上)が特徴的です。危険度:低〜中
完全右脚ブロック(QRS幅≧0.12秒): 健常者にも見られることがあり、単独で存在する場合は多くの場合経過観察で問題ありません。ただし、新たに出現した右脚ブロック・心疾患を伴う場合は精査が必要です。
不完全右脚ブロック(QRS幅0.10〜0.12秒): ほぼ正常亜型とされており、精査は不要なことがほとんどです。健診の心電図で最もよく見つかる「要観察」所見の一つです。
右脚ブロック単独で症状がない場合、多くの場合は「そういう波形の人」として経過観察で問題ありません。ただし、以下の場合は精査が必要です。
・新たに出現した(以前はなかった)右脚ブロック
・左脚前枝ブロックや左脚後枝ブロックを同時に伴う(二束ブロック・三束ブロック)
・症状(失神・めまい・息切れ)を伴う当院での対応:
症状がなく、以前から同じ所見が続いている場合は経過観察が基本です。新規出現・症状を伴う場合は心臓エコーで器質的疾患の除外を行います。③左脚ブロック(Left bundle branch block:LBBB)
所見の意味:
左脚ブロックは、左心室への伝導路(左脚)が障害を受けている状態です。QRS幅の著明な延長(0.12秒以上)・V5・V6誘導での幅広い陽性QRS波が特徴的です。危険度:高
左脚ブロックは右脚ブロックと異なり、器質的な心疾患(心筋症・心筋梗塞・重篤な冠動脈疾患)を背景に持つことが多く、新規に出現した場合は特に重要な所見です。
左脚ブロックがあると、通常の心電図でのST変化・Q波の評価が困難になります(左脚ブロック自体がST変化を引き起こすため)。このため左脚ブロックがある患者さんの狭心症・心筋梗塞の診断には、心臓エコー・核医学検査・冠動脈CTなどの追加評価が必要です。
当院での対応:
新規に出現した左脚ブロックは緊急性の高い所見として扱います。心臓エコー・血液検査(BNP・トロポニン)を当日行い、心疾患の評価を行います。冠動脈評価のためにCVICまたは日本医科大学付属病院への優先紹介を検討します。④期外収縮(Extrasystole)
所見の意味:
期外収縮は、正常な心拍のリズムの合間に、予定より早く心臓が収縮する不整脈です。「脈が飛ぶ」「ドキドキする」という自覚症状を起こすことがありますが、無症状のことも多いです。発生部位によって以下に分類されます。
上室性期外収縮(SVPC): 心房・房室結節から発生。P波の形が異常なQRS波(幅が細い)が特徴。
心室性期外収縮(VPC): 心室から発生。幅広い変形したQRS波が特徴。
危険度:低〜高(種類・頻度・背景疾患による)
期外収縮の危険度は、種類・頻度・背景に心疾患があるかどうかによって大きく異なります。
危険度が低い(経過観察でよいことが多い)ケース:
・単発の上室性期外収縮
・単発の心室性期外収縮で、心臓に器質的疾患がない(機能的期外収縮)
・カフェイン・アルコール・睡眠不足・ストレスが原因の期外収縮危険度が高い(精査が必要な)ケース:
・連発する心室性期外収縮(2連発:couplet、3連発以上:非持続性心室頻拍)
・多形性心室性期外収縮(複数の形の期外収縮が混在)
・器質的心疾患(心筋症・心筋梗塞後・心不全)に伴う心室性期外収縮
・運動中に増加する心室性期外収縮
・24時間で1万回以上の高頻度期外収縮(頻発VPCによる心筋症のリスク)私の外来でも「健診で期外収縮と言われて何年も放置していた」という患者さんがいます。24時間ホルター心電図で調べると、1日2万回以上の頻発心室性期外収縮が記録され、心臓エコーで心機能の軽度低下が見つかった——というケースを経験しています。「期外収縮くらい大丈夫」という思い込みが、心機能低下の発見を遅らせることがあります。
当院での対応:
24時間ホルター心電図で期外収縮の頻度・種類・連発の有無を評価します。心臓エコーで器質的心疾患の除外を行います。高頻度・連発・器質的心疾患合併の場合は、抗不整脈薬の検討または専門施設への紹介を行います。⑤WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)
所見の意味:
WPW症候群は、心房と心室の間に正常の伝導路(房室結節)以外の「副伝導路(ケント束)」が先天的に存在する状態です。心電図ではPR間隔の短縮・QRS波の開始部に「デルタ波」と呼ばれる緩やかな立ち上がりが特徴的に見られます。危険度:中〜高
WPW症候群では、以下の問題が起きる可能性があります。
発作性上室性頻拍(PSVT): 副伝導路を使ったリエントリー(旋回興奮)により、突然の頻脈発作(心拍数150〜250回/分)が起きます。突然ドキドキして突然止まるという典型的な症状です。
心房細動との組み合わせによる突然死: WPW症候群に心房細動が合併すると、副伝導路を通じて心室に過剰な電気刺激が伝わり、心室細動(突然死の原因)に移行するリスクがあります。これが最も危険なシナリオです。
ただし、WPW症候群でも副伝導路の特性(不応期の長さ)によってリスクが大きく異なります。リスク評価には電気生理学的検査が必要なケースがあります。
当院での対応:
症状(動悸発作)がある場合・デルタ波が明確な場合は、電気生理学的検査・カテーテルアブレーション(副伝導路の焼灼による根治療法)の適応評価のために専門施設への紹介を行います。
所見別の当院での対応フローと、受診のタイミング
「すぐに受診すべき所見」と「次の健診まで待てる所見」
改めて、所見別の緊急度・対応をまとめます。
【今すぐ受診が必要】
症状(胸痛・息切れ・動悸・失神)を伴う全ての所見、ST上昇、新規出現の左脚ブロック、新規出現の心房細動【1〜2週間以内に受診推奨】
ST低下(症状なし)、心房細動(症状なし・既知)、QT延長、陳旧性心筋梗塞疑い、左脚ブロック(既知)、WPW症候群、連発する心室性期外収縮【1〜3ヶ月以内に受診推奨】
左室肥大、右脚ブロック(新規)、頻発する期外収縮(症状あり)【経過観察で可(次回健診まで)】
不完全右脚ブロック(既知・症状なし)、単発の上室性期外収縮(症状なし)、軽度の非特異的ST-T変化当院での標準的な精査フロー
当院では健診心電図異常を持参された患者さんに対して、以下の流れで評価を行っています。
Step1:問診・身体診察
所見の内容確認、症状の有無、既往歴・家族歴・服薬内容の確認、血圧・脈拍・聴診Step2:当日実施できる検査
・12誘導心電図(健診結果との比較・変化の確認)
・血液検査(BNP・トロポニン・電解質・腎機能・甲状腺機能・血糖・脂質)
・心臓エコー(器質的疾患の評価・左室機能・壁運動・弁膜症の確認)
・胸部レントゲン(心拡大・肺うっ血の確認)Step3:追加検査(必要に応じて)
・24時間ホルター心電図(発作性不整脈・ST変化の評価)
・頸動脈エコー(動脈硬化の評価)
・ABI(末梢動脈疾患の評価)Step4:専門施設への紹介(必要な場合)
冠動脈CTが必要な場合はCVIC(心臓血管研究所付属病院)または日本医科大学付属病院へ優先紹介します。当院との連携により、通常より迅速に検査を受けていただける体制を整えています。電気生理学的検査・カテーテルアブレーション・冠動脈インターベンション(PCI)が必要な場合も、適切な施設へ速やかに紹介します。健診結果を持って受診するときのポイント
当院を受診する際に、以下をお持ちいただくと診察がスムーズです。
・今年の健診結果(心電図波形のコピーがあればなお良い)
・過去の健診結果(何年前から同じ所見があるかの確認に重要)
・現在服用中の薬のリスト(お薬手帳)
・家庭血圧の記録(あれば)「健診の紙を持ってきたけれど、心電図の波形は捨ててしまった」という方も多いです。健診結果は心電図の波形も含めて保管しておくことを強くおすすめします。波形があると、所見の正確な評価・経年変化の確認ができます。
南千住・荒川区の患者さんへ
「健診で心電図異常と言われたけれど、何年も放置している」「要精査と書かれているが、どこに行けばいいかわからない」——こうした方こそ、まず循環器内科を受診してください。
心電図異常のほとんどは、適切に評価すれば「経過観察でよいもの」「生活習慣の改善で対応できるもの」に分類されます。しかし中には、今すぐ精査・治療が必要な所見が含まれていることがあります。その仕分けを、症状のないうちに行うことが、心臓病の予防・早期発見の要です。
当院では、健診結果を持参いただければ、当日の心電図・心臓エコー・血液検査を組み合わせた評価が可能です。Web予約は24時間受け付けています。
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院長の結論
健診心電図の所見を20年近く評価し続けてきて、実感することがあります。「心電図異常=心臓が悪い」でも「心電図正常=心臓は大丈夫」でもない、ということです。
ST低下・心房細動・左脚ブロック・陳旧性心筋梗塞疑いは、症状がなくても今すぐ精査が必要な所見です。一方、不完全右脚ブロック・単発の上室性期外収縮は、ほとんどの場合経過観察で問題ありません。この仕分けを、「心電図異常です」という一言で済ませる健診の限界を、私は常々感じています。
患者さんに伝えたいのは一つです。「何年も同じことを言われているから大丈夫」は、心電図に関しては危険な楽観主義です。一度も精査を受けたことがない方は、ぜひ一度、循環器内科専門医に診てもらってください。「大丈夫だった」という確認を得ることも、医療を受ける重要な理由です。
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★まとめ
・健診の安静時心電図は「10秒間のスナップショット」です。労作時狭心症・発作性不整脈・心臓の構造的異常は拾えないため、「心電図正常」は「心臓に問題なし」と同義ではありません
・ST低下・心房細動・QT延長・左脚ブロック・陳旧性心筋梗塞疑いは危険度の高い所見であり、症状がなくても速やかな精査が必要です
・左室肥大は高血圧による標的臓器障害のサインです。血圧管理の強化と心臓エコーによる評価が必要です
・右脚ブロック(特に不完全)は比較的良性の所見ですが、左脚ブロックは器質的心疾患を伴うことが多く要注意です
・期外収縮の危険度は種類・頻度・背景心疾患によって大きく異なります。「期外収縮くらい大丈夫」という思い込みで高頻度VPCを放置すると心機能が低下することがあります
・「何年も同じことを言われているから大丈夫」という判断は危険です。一度も精査を受けていない方は循環器内科を受診してください
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★よくあるご質問(FAQ)
Q➤ 健診で「要精査」と書かれましたが、症状が全くありません。受診は必要ですか?
A➤ 必要です。心電図異常の多くは無症状のまま進行します。特にST低下・心房細動・左脚ブロック・陳旧性心筋梗塞疑いは、症状がなくても精査が必要な所見です。「症状がないから大丈夫」という判断は、心電図に関しては危険な楽観主義です。健診結果を持参の上、循環器内科を受診してください。
Q➤ 右脚ブロックと言われました。治療は必要ですか?
A➤ 不完全右脚ブロック(QRS幅0.10〜0.12秒)は正常亜型に近く、ほとんどの場合経過観察で問題ありません。完全右脚ブロック(QRS幅0.12秒以上)も、単独で症状がなく以前から同じ所見であれば経過観察が基本です。ただし新規に出現した場合・症状を伴う場合・左脚前枝ブロックを同時に伴う場合は精査が必要です。
Q➤ 期外収縮と言われました。コーヒーをやめれば治りますか?
A➤ 上室性期外収縮・機能的な心室性期外収縮は、カフェイン・アルコール・睡眠不足・ストレスの軽減で改善することがあります。ただし「やめれば治る」かどうかは、まず心臓エコーとホルター心電図で器質的心疾患の除外・期外収縮の頻度と種類の確認を行ってからの判断です。自己判断での生活改善だけでは不十分なケースがあります。
Q➤ 心房細動と言われましたが、動悸を感じたことが全くありません。薬は必要ですか?
A➤ 無症状の心房細動でも、症状がある心房細動と同様に脳梗塞リスクは存在します。CHA₂DS₂-VAScスコアによるリスク評価を行い、2点以上(女性は3点以上)であれば抗凝固薬(DOACs)による脳梗塞予防が強く推奨されます。高血圧・糖尿病・65歳以上などのリスク因子がある方は、無症状でも抗凝固療法が必要なケースがほとんどです。
Q➤ 健診の心電図波形と、受診先での心電図が違う所見でした。どちらが正しいのですか?
A➤ 両方が正しい可能性があります。心電図所見は時間によって変化することがあり、特に発作性の不整脈・労作時のST変化は、記録された時間によって異なる結果になります。健診と受診時で所見が異なる場合は、どちらかが「偽物」ではなく、それぞれの時点での正確な記録です。両方の結果を担当医に提示し、経過変化として評価してもらうことが重要です。
参考文献
日本循環器学会「不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン2022年改訂版」
日本循環器学会「心房細動治療(薬物)ガイドライン2020年改訂版」
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2023(JSH2023)」
Kirchhof P, et al. "2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation." European Heart Journal, 2016.
Aro AL, et al. "Early repolarization and risk of death: results from the European Sudden Cardiac Arrest network." Journal of the American College of Cardiology, 2016.
Goldberger AL, et al. "Goldberger's Clinical Electrocardiography: A Simplified Approach." 9th edition, Elsevier, 2017.
日本不整脈心電学会「心電図判読の基準と自動解析ガイドライン」2022年版
日本循環器学会「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン2018年改訂版」このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会