院長コラム
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院長コラム2026/01/13
糖尿病治療の最前線
〜心臓と血管を守るための新しい薬の考え方〜
SGLT2阻害薬とマンジャロを循環器内科専門医が徹底解説
糖尿病は「血糖の病気」ではなく「血管の病気」
糖尿病というと「血糖値が高い病気」と思われがちですが、
医学的には血管が少しずつ傷んでいく病気と考える方が本質に近いと言えます。血糖が高い状態が続くと、血管の内側が障害され、
動脈硬化が進行します。その結果として将来的に問題になるのが、
•心筋梗塞
•脳卒中
•心不全(息切れ・むくみで入院を繰り返す状態)です。いずれも人生に大きなインパクトをもたらす怖い病気です。
現在の糖尿病治療は、
「血糖値をどこまで下げたか」ではなく
「将来の心臓・血管の病気をどれだけ防げるか」
という視点が非常に重要になっています。
心不全にも効果が期待される SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、尿に糖を排出することで血糖を下げる薬です。
しかし現在ではそれ以上に、
•体の余分な水分・塩分を減らす
•心臓にかかる負担を軽くする
•息切れやむくみでの入院を減らすといった心不全に対する効果が高く評価されています。
循環器内科の立場から見ると、この薬はすでに
「糖尿病薬」ではなく「心臓を守る治療の一部」
として位置づけられています。体重と動脈硬化に目を向けた GLP-1受容体作動薬
GLP-1受容体作動薬は、
•食欲を抑える
•食後血糖の上昇を穏やかにするといった作用を持つ薬です。
体重が減ることで、
•血圧
•コレステロールや中性脂肪
•脂肪肝が同時に改善しやすくなり、
動脈硬化の進行を抑える効果が期待されます。一方で、吐き気や便秘などの消化器症状が出ることがあり、
特に高齢の方では筋肉量が落ちすぎないよう慎重な管理が必要です。
マンジャロ(チルゼパチド)は何が新しいのか
マンジャロは、
GLP-1とGIPの両方に作用する、唯一のGLP-1/GIP作動薬です。
GIPとは何か(わかりやすく)
GIPは食事に反応して分泌されるホルモンで、
•インスリン分泌を助ける
•脂肪やエネルギーの使われ方に関与するといった働きを持っています。
マンジャロは
「食欲を抑える作用(GLP-1)」 と
「代謝の方向性を変える作用(GIP)」
を同時に持つ点が、これまでの薬と大きく異なります。
実臨床で感じる「体重が減りやすい人」の特徴
多くの患者さんにマンジャロを処方してきた経験から、
体重減少が比較的スムーズに進みやすい方には、次のような特徴があります。体重減少しやすい臨床像
•内臓脂肪型肥満(お腹周りが目立つ)
•食欲が強く「つい食べてしまう」感覚がある
•比較的若年〜中年で筋力・代謝が保たれている
•胃腸症状が出にくい体質一方で、
•食事量がもともと少ない
•高齢で筋肉量が少ない
•体重よりも血糖だけが問題の方では、体重減少効果が限定的なこともあります。
「効かない人」はいるのか?
臨床試験の解析では、
体重減少が5%未満にとどまる方が一定数存在します。ただし重要なのは、
初期反応が弱くても、
数か月かけて徐々に体重が減ってくる方が少なくないという点です。
そのため、早期に「効かない」と判断せず、
用量調整や生活習慣を含めて総合的に評価することが大切です。日本人は「比較的効きやすい」のか?
その根拠となる研究
近年、日本人を対象とした臨床試験が報告され、注目されています。
日本人データのポイント
•日本人2型糖尿病患者を対象とした試験では、
体重減少・血糖改善ともに明確な効果が示されています
•海外データと比べても、
比較的低用量でも反応が出やすい可能性が示唆されています特に
SURPASS J-mono / J-combo 試験では、日本人においても
体重・HbA1cの改善が一貫して認められました。体格や内臓脂肪量、ホルモン反応の違いが、
この差に関与している可能性が考えられています。実際に注意すべき副作用(現場の視点)
マンジャロで多い副作用は、
•吐き気
•胃もたれ
•便秘
•食欲低下によるだるさです。
特に注意しているのは、•食事量が減りすぎる
•水分摂取不足
•筋肉量低下による体力低下体重が減る=健康ではありません。
筋肉を保ち、体調を崩さずに減量することが、
心臓・血管を守るうえで非常に重要です。薬は「流行」ではなく「リスクから逆算」
マンジャロは非常に優れた薬ですが、
誰にでも使えばよい薬ではありません。•心不全リスクが前面にある方
•肥満・動脈硬化リスクが前面にある方
•年齢・体力・生活背景これらを総合的に評価し、
SGLT2阻害薬を軸にするのか、マンジャロを検討するのかを判断します。まとめ
糖尿病治療は、
「血糖値を下げる治療」から
「将来の心臓と血管の病気を防ぐ治療」へ進化しています。
新しい薬を正しく理解し、
その人に合った形で使うことが、何より大切です。
参考文献
1.Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2022;387:205–216.
2.Del Prato S, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2021.
3.Kadowaki T, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2023.(SURPASS J試験)
4.Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117–2128.
5.McMurray JJV, et al. N Engl J Med. 2019;381:1995–2008.
文責:茂澤メディカルクリニック南千住
院長 茂澤 幸右(糖尿病学会所属・循環器内科専門医)