院長の生活習慣病コラム
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院長の生活習慣病コラム2026/07/14
糖尿病と足の深い関係——末梢の血管と神経を蝕む合併症を循環器専門医が解説
はじめに——「足のことは整形外科へ」では間に合わないことがある
「先生、最近足の裏がしびれるんですが、整形外科に行けばいいですか?」
糖尿病の患者さんからこう聞かれたとき、私は少し立ち止まります。足のしびれは確かに整形外科的な原因(腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症)で起きることもあります。しかし糖尿病の患者さんの場合、足のしびれ・冷感・傷の治りの悪さは、血管と神経への深刻なダメージが始まっているサインである可能性があります。糖尿病の三大合併症として「網膜症・腎症・神経障害」がよく知られています。しかしそこに「末梢動脈疾患(PAD)」を加えた四つが、糖尿病患者の足を蝕む主役です。そしてこれらは、単独で起きるのではなく、互いに絡み合いながら進行していきます。
日本における糖尿病性足病変による下肢切断は、年間約3,000〜4,000件と報告されています。その多くは、足の変化を「年のせい」「疲れのせい」と見過ごした末に起きています。
今回は、糖尿病が足の血管と神経に何をしているのかを、循環器内科専門医の立場から丁寧に解説します。「足のことは足の専門家へ」ではなく、「血管と神経の問題として、全身を診る医師と一緒に管理する」という視点をお伝えしたいと思います。
糖尿病が血管と神経を壊すメカニズム——高血糖が引き起こす「静かな破壊」
高血糖が血管を傷める二つの経路
糖尿病による血管障害を理解するうえで、まず知っておきたいのは「高血糖が血管を傷める経路は一つではない」という事実です。①酸化ストレスと炎症による血管内皮障害
血糖値が高い状態が続くと、血管内皮細胞でグルコース(ブドウ糖)の過剰代謝が起き、活性酸素が大量に産生されます。この酸化ストレスが血管内皮細胞を直接傷め、血管を広げる一酸化窒素(NO)の産生を低下させます。血管は収縮しやすくなり、動脈硬化が加速します。②糖化(AGEs)による血管壁の硬化
高血糖状態では、タンパク質とグルコースが結合した「糖化最終産物(AGEs)」が血管壁に蓄積します。AGEsはコラーゲン繊維を架橋し、血管壁を硬くします。これが糖尿病患者の血管が「ガラス管のように硬くなる」と表現される原因です。硬化した血管は、石灰化(血管の石灰沈着)も起こしやすく、通常のX線でも白く写るほどになることがあります。糖尿病性神経障害——「痛みを感じない」という恐怖
糖尿病性神経障害は、高血糖による末梢神経への直接的なダメージです。特に重要なのは「感覚神経障害」で、足の感覚が鈍くなることです。健康な人であれば、足に傷ができれば痛みを感じ、すぐに気づきます。しかし神経障害が進んだ糖尿病患者は、足に釘が刺さっても、靴擦れで皮膚が破れても、やけどをしても、痛みを感じないことがあります。
「痛みを感じない=問題がない」ではありません。「痛みを感じない=傷に気づけない=感染・壊疽が進む」という最悪のシナリオに直結します。
私の外来でも、「足の裏に傷があることに気づかず、1週間後に膿んでから受診した」という患者さんを経験しています。その患者さんは感覚障害が進行していたため、傷の痛みを全く感じていなかったのです。神経障害は、足を守るべき「警報装置」を壊してしまいます。
自律神経障害と「足の乾燥・変形」
糖尿病性神経障害は感覚神経だけでなく、自律神経にも影響します。足の汗腺を支配する自律神経が障害されると、足の皮膚が乾燥しやすくなり、皮膚のバリア機能が低下します。乾燥した皮膚はひび割れ(皮膚亀裂)を起こしやすく、そこから細菌が侵入します。
また、運動神経の障害により足の筋肉のバランスが崩れると、足趾の変形(ハンマートゥなど)が起き、靴の中で特定の部位に圧力が集中するようになります。この「圧力の集中」が、気づかないうちにタコ(胼胝)や潰瘍を形成する原因になります。
末梢動脈疾患(PAD)——糖尿病患者の足を脅かすもう一つの敵 PADとは何か——足の血管が詰まる病気
末梢動脈疾患(PAD:Peripheral Artery Disease)とは、下肢の動脈に動脈硬化が進行し、血流が低下した状態です。心臓の冠動脈が詰まると心筋梗塞になるように、足の動脈が詰まると足の組織が壊死します。
糖尿病患者はPADを発症するリスクが非糖尿病者の2〜4倍高く、しかも発症年齢が若く、進行が速いという特徴があります(Hirsch AT, et al. JAMA, 2001)。さらに、前述の神経障害によって痛みを感じにくいため、PADが進行しても自覚症状に乏しく、発見が遅れがちです。
PADの症状——「歩くと痛い」から「安静時も痛い」へ
PADの症状は、進行度によって段階的に現れます。間欠性跛行(かんけつせいはこう):
一定距離を歩くと、ふくらはぎや太ももに痛みやだるさが出て歩けなくなり、休むと回復する——これを間欠性跛行と呼びます。「最近、少し歩くと足が痛くなって休まなければならない」という訴えは、PADの重要なサインです。
ただし、糖尿病性神経障害が合併していると、この間欠性跛行の「痛み」を感じない患者が多く、PADが進行しても症状として気づきにくいのが糖尿病患者の厄介な点です。安静時疼痛:
PADがさらに進行すると、歩行時だけでなく、安静時にも足先に痛みや灼熱感が出現します。特に夜間・就寝時に足先の痛みで眠れないという訴えは、重症PADのサインです。足を下げると(重力で血流が増えると)楽になるため、足を下げた姿勢で寝る患者さんもいます。潰瘍・壊疽:
最重症のPADでは、足先の組織への血流が著しく低下し、皮膚潰瘍や壊疽(組織の壊死)が起きます。壊疽が広がると、下肢切断を余儀なくされることがあります。
ABI(足関節上腕血圧比)——PADの簡便なスクリーニング検査
PADの診断に最も広く使われる検査がABI(Ankle Brachial Index:足関節上腕血圧比)です。
ABIは、足首の血圧を上腕の血圧で割った値で、正常では0.9以上です。0.9未満の場合はPADの疑いがあり、0.7未満では中等度以上のPADと判断されます。当院でもABIを測定することがあります。「足がしびれる」「歩くと足が痛い」「足が冷たい」という糖尿病患者さんには、ABIを確認することが重要です。この簡便な検査一つで、PADの有無を効率よくスクリーニングできます。
「神経障害+血流障害+感染」——糖尿病性足病変の三重苦 糖尿病性足病変はなぜ重症化しやすいのか
糖尿病性足病変が恐ろしいのは、「神経障害・血流障害・易感染性」という三つの問題が同時に重なるからです。
神経障害(警報装置の喪失): 傷や圧迫に気づけない。
血流障害(修復能力の低下): 傷ができても、血流が乏しいと白血球や栄養素が傷口に届かず、治癒が遅れる。
易感染性(免疫機能の低下): 高血糖状態では、白血球の殺菌能力が低下し、細菌感染が起きやすく、かつ重症化しやすい。
この三つが揃うと、小さな傷が→感染→深部組織への波及→骨髄炎→壊疽という最悪のシナリオを驚くほど短期間で辿ることがあります。「たこ・魚の目」が命取りになることがある
健康な人なら問題にならない「たこ(胼胝)」や「魚の目(鶏眼)」が、糖尿病患者では重大な問題になり得ます。
たこの下には潰瘍が形成されていることがあり、気づかずに歩き続けることで潰瘍が深部へ進行します。また魚の目を自己処置(カミソリや市販の薬で削る)した際に皮膚を傷つけ、そこから感染が起きるケースも少なくありません。糖尿病患者さんには、「足のたこ・魚の目は自己処置しない」「フットケアは専門家に相談する」ことを、私は外来で繰り返しお伝えしています。
「足を毎日見る」習慣が命を救う
糖尿病性足病変の予防で最も重要かつ最もシンプルな習慣が、「毎日自分の足を観察する」ことです。
傷・発赤・腫れ・変色・爪の異常・皮膚のひび割れ——これらを毎日確認することで、早期発見・早期治療につながります。足の裏は自分では見づらいため、鏡を使う、または家族に見てもらうことも有効です。以下のような変化があれば、すぐに受診してください。
・傷・潰瘍がある(痛みがなくても)
・足の一部が黒く変色している
・足がいつもより熱を持っている・腫れている
・傷の治りが2週間以上経っても改善しない
当院での診療アプローチ——足を守るための「全身管理」
足病変は「足だけの問題」ではない
糖尿病性足病変を持つ患者さんの多くは、同時に心臓病・腎臓病・網膜症などの合併症も抱えています。足の動脈が詰まっているということは、心臓の冠動脈や脳の血管も同様に動脈硬化が進んでいる可能性が高いということです(コラム㉗参照)。実際、PADと診断された患者さんの心筋梗塞・脳卒中リスクは、PADのない患者さんの2〜3倍に達するとされています(Steg PG, et al. JAMA, 2007)。足の血管を診ることは、全身の血管を診ることと同義です。
当院では、糖尿病患者さんの足の症状(しびれ・冷感・傷の治りの悪さ)を訴えとして来院された場合、足だけを診るのではなく、血糖コントロール(HbA1c)・血圧・脂質・腎機能をセットで評価します。足病変の予防と治療は、血糖・血圧・脂質の三指標を同時にコントロールする「全身管理」なしには成立しないからです。
血糖コントロールと足病変の関係
UKPDS(英国前向き糖尿病研究)をはじめとする複数の大規模臨床試験が、厳格な血糖コントロールが糖尿病性神経障害・血管障害の進行を抑制することを示しています。HbA1cを1%下げることで、細小血管合併症(神経障害・腎症・網膜症)のリスクが約25〜35%低下するとされています。
しかし血糖コントロールだけでは不十分です。高血圧は血管障害を加速し、脂質異常症は動脈硬化を進めます。特にLDLコレステロールの管理は、PADの進行抑制に直結します(コラム⑫参照)。
足病変を防ぐためには、「血糖だけ下げればいい」という考え方を捨て、血圧・脂質・体重・禁煙を含めた包括的なリスク管理が必要です。
フットケアと専門医連携
糖尿病性足病変が疑われる場合や、すでに足に潰瘍・変形がある場合は、血管外科・形成外科・フットケア専門外来などとの連携が必要になります。当院では、足病変のリスクが高いと判断した患者さんには、適切なタイミングで専門科への紹介を行っています。「まだ大したことない」と思っているうちに対処することが、切断を防ぐ最大の鍵です。
また、日常のフットケアとして以下を患者さんにお伝えしています。
・毎日足を洗い、丁寧に乾かす(特に趾間)
・保湿クリームで皮膚の乾燥を防ぐ(趾間には塗らない)
・爪は深爪せず、まっすぐ切る
・自分の足に合った靴を選ぶ(つま先に余裕のあるもの)
・素足で歩かない(屋内でも)南千住・荒川区の患者さんへ
「足がしびれるけれど、年のせいかと思っていた」「足の傷がなかなか治らない」「歩くと足が重くなる」——こうした症状を糖尿病の方が感じているとき、それは単なる疲れや加齢ではなく、血管と神経からのSOSである可能性があります。
茂澤メディカルクリニック南千住では、南千住・荒川区エリアの糖尿病患者さんの足病変リスクを、循環器内科・生活習慣病専門の視点から血糖・血圧・脂質・血管機能をセットで評価・管理しています。
気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。ーーーーーーーーーーーーーーーー
★まとめ
・糖尿病は高血糖による酸化ストレス・糖化(AGEs)を通じて、血管壁を直接傷め・硬化させます。この変化は足の末梢血管から始まることが多いです
・糖尿病性神経障害は「痛みを感じない」という状態を作り出します。傷に気づけないことが、足病変の重症化を招く最大の原因です
・末梢動脈疾患(PAD)は糖尿病患者に2〜4倍多く発症します。「歩くと足が痛い・重い」「足が冷たい・しびれる」はPADのサインです
・糖尿病性足病変は「神経障害+血流障害+易感染性」の三重苦で重症化しやすく、たこ・魚の目の自己処置も危険です
・毎日足を観察する習慣が、足病変の早期発見に最も有効です。傷・変色・腫れがあれば、痛みがなくても受診してください
・足病変の予防は血糖だけでなく、血圧・脂質・体重・禁煙を含めた全身管理が必要ですーーーーーーーーーーーーーーーー
★よくあるご質問(FAQ)
Q➤ 足のしびれは糖尿病性神経障害ですか?整形外科に行くべきですか?
A➤ 足のしびれの原因は腰椎疾患(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症)でも起きますが、糖尿病がある場合は神経障害・末梢動脈疾患の可能性を先に除外することが重要です。まずかかりつけの内科・糖尿病内科を受診し、神経障害・血流の評価を受けてください。Q➤ ABIはどこで受けられますか?痛い検査ですか?
A➤ ABIは両腕と両足首に血圧計を巻いて同時に血圧を測定するだけの、痛みのない検査です。所要時間は10〜15分程度です。当院でも対応しており、「足が冷たい」「歩くと足が重い」という糖尿病患者さんには積極的に測定を行っています。Q➤ 血糖コントロールが良ければ足病変は防げますか?
A➤ 血糖コントロールは非常に重要ですが、それだけでは不十分です。HbA1cを下げることで神経障害・細小血管障害のリスクは低下しますが、PADの予防には血圧・LDLコレステロールの管理・禁煙も同様に重要です。足病変の予防は血糖・血圧・脂質の三指標を同時に管理する「全身戦略」が必要です。Q➤ 足のたこ・魚の目は自分で処置してもいいですか?
A➤ 糖尿病がある方の足のたこ・魚の目の自己処置はおすすめしません。削る際に皮膚を傷つけると、そこから感染が広がるリスクがあります。市販のたこ・魚の目用薬剤(サリチル酸製剤)も、皮膚を溶かす作用があるため糖尿病患者への使用は慎重であるべきです。フットケア外来や専門家への相談をおすすめします。Q➤ 糖尿病の足病変は治りますか?
A➤ 早期に発見・治療すれば、多くの場合は回復・改善が期待できます。重要なのは「早期発見」です。軽度の潰瘍であれば適切な処置と血糖・血流管理で治癒しますが、壊疽が深部まで及んだ場合は外科的処置が必要になることもあります。「まだ大したことない」と思っているうちに受診することが、最悪のシナリオを防ぐ最善策です。
参考文献
日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
日本循環器学会「末梢動脈疾患ガイドライン2022年改訂版」
Hirsch AT, et al. "Peripheral arterial disease detection, awareness, and treatment in primary care." JAMA, 2001.
Steg PG, et al. "One-year cardiovascular event rates in outpatients with atherothrombosis." JAMA, 2007.
UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. "Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes." Lancet, 1998.
Armstrong DG, et al. "Diabetic Foot Ulcers and Their Recurrence." New England Journal of Medicine, 2017.
日本フットケア・足病医学会「糖尿病足病変診療ガイドライン」2021年版このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会