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院長の生活習慣病コラム

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    2026/07/07

    足のむくみは「体のSOS」です——疲れ・塩分・心臓・腎臓、原因別に循環器内科専門医が解説

    はじめに——「夕方になると足がパンパン」を笑えない理由「夕方になると靴がきつくなる」「夜になると足首のあたりがむくんでいる」——こうした経験は、多くの方に心当たりがあるのではないでしょうか。「どうせ疲れのせい」「塩辛いものを食べたから」「年だから仕方ない」——そう自己判断して、むくみをやり過ごしている方は非常に多いです。しかし私が外来で感じるのは、そのむくみを「疲れのせい」で片づけている間に、心臓・腎臓・血管が深刻なダメージを蓄積していたというケースが、決して少なくないという現実です。むくみは、体が発している「エラーメッセージ」です。エラーの原因は一つではありません。疲労や塩分過多によるものもあれば、心臓のポンプ機能の低下、腎臓の濾過機能の異常、下肢の静脈・リンパの障害など、放置すると命に関わる疾患が背景にあることもあります。今回は、足のむくみの原因を一つひとつ丁寧に整理しながら、「様子見でいいむくみ」と「すぐに受診すべきむくみ」の見分け方を、循環器内科専門医の立場からお伝えします。

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    そもそも「むくみ」はなぜ起きるのか——メカニズムの基本

    体液バランスが崩れると「むくみ」になる
    人体の約60%は水分で構成されており、その水分は血管内・細胞内・細胞と細胞の間(間質)の三つの区画に分かれています。

    むくみ(浮腫)とは、この間質に水分が過剰に溜まった状態です。
    正常な状態では、心臓が送り出す血液の圧力によって毛細血管から間質へ水分が染み出し、その水分はリンパ管や静脈を通じて回収されます。この「染み出し」と「回収」のバランスが崩れたとき、間質に水分が溜まり、むくみになります。

    むくみが足に出やすい理由
    むくみは全身に起こり得ますが、特に足(下肢)に出やすいのには理由があります。
    重力の影響で、体の下方ほど静脈圧が高く、水分が溜まりやすい構造になっています。また、足は心臓から最も遠い末梢に位置するため、静脈血を心臓に押し返すポンプ機能(ふくらはぎの筋肉ポンプ)が低下すると、血液と水分が足に滞留しやすくなります。
    長時間のデスクワークや立ち仕事でふくらはぎを動かさない状態が続くと、筋肉ポンプが働かず、静脈血が足に溜まってむくみが生じます。これが「疲れ・長時間労働によるむくみ」の正体です。

    むくみの原因は大きく4つに分類できる
    足のむくみの原因は、大きく以下の4つに分類できます。
    ・生理的・一時的なもの(疲労・塩分・長時間同姿勢・薬の副作用)
    ・心臓の問題(心不全・心臓のポンプ機能低下)
    ・腎臓・肝臓の問題(腎不全・ネフローゼ・肝硬変)
    ・静脈・リンパの問題(下肢静脈瘤・深部静脈血栓症・リンパ浮腫)
    この4つのカテゴリーを順番に、特徴と見分け方とともに解説していきます。

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    「疲れ・塩分・薬」によるむくみ——様子見でいいケースの見分け方

    一時的なむくみの典型パターン
    以下の特徴がそろう場合、むくみの原因は生理的・一時的なものである可能性が高いです。
    ・朝起きたらむくみが消えている(または大幅に改善している)
    ・両足が同程度にむくんでいる
    ・足を高くして休むと楽になる
    ・塩辛いものを食べた翌日・長時間立ち仕事の後など、原因に心当たりがある
    ・息切れ・動悸・体重の急増などの症状を伴わない
    こうした一時的なむくみは、塩分制限・足の挙上・ふくらはぎのストレッチやウォーキングで改善します。

    生活習慣によるむくみの代表的な原因
    塩分の過剰摂取: 塩分を多く摂ると、体内のナトリウム濃度を一定に保つために血管内に水分が引き込まれ、循環血液量が増加します。毛細血管からの水分の染み出しが増え、間質に水分が溜まりやすくなります(コラム㉜参照)。
    長時間の同一姿勢: デスクワークや長距離移動でふくらはぎを動かさないと、筋肉ポンプが機能せず、下肢に血液と水分が滞留します。飛行機でのエコノミークラス症候群もこの延長線上にあります。

    加齢による静脈弁の機能低下: 静脈には血液の逆流を防ぐ弁がありますが、加齢とともにこの弁の機能が低下し、下肢に血液が溜まりやすくなります。「年をとるとむくみやすくなる」のはこのためです。

    薬剤性のむくみ: カルシウム拮抗薬(降圧薬の一種)・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)・ステロイド・一部の糖尿病薬(チアゾリジン系)は、むくみを引き起こすことがあります。「薬を飲み始めてからむくむようになった」という場合は、自己判断で中断せず主治医に相談してください。

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    心臓・腎臓・肝臓が出しているSOS——見逃せないむくみの正体 心不全のむくみ——「全身の水の渋滞」

    心不全のむくみ——「全身の水の渋滞」
    心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を十分に送り出せなくなった状態です。
    心臓が血液をうまく送り出せなくなると、静脈側に血液が逆流・滞留します。この「静脈うっ血」によって毛細血管内の圧力が上昇し、大量の水分が間質へ染み出します。これが心不全によるむくみの正体です。
    重力の影響で最初は足首・下腿に出現し、進行すると膝・大腿・腹部(腹水)・肺(肺水腫)へと広がっていきます。肺に水が溜まると、横になると息苦しくなる「起座呼吸」や、夜間に突然息苦しくなって目が覚める「発作性夜間呼吸困難」が起きることもあります。
    心不全のむくみの特徴は以下の通りです。
    ・両足が対称的にむくむ(片足だけのむくみは心不全よりも静脈・リンパの問題を疑う)
    ・押すと跡が残る「圧痕性浮腫」(指で押して離した後、凹みがしばらく残る)
    ・朝になっても完全には消えない
    ・体重が短期間で増加している(1週間で2kg以上増えた場合は要注意)
    ・息切れ・動悸・夜間の咳を伴う
    私の外来でも、「最近夕方になると足がひどくむくむ」と受診された患者さんに心エコーを施行すると、左室駆出率(心臓が血液を送り出す力の指標)が著しく低下していたケースを何度も経験しています。患者さん本人は「むくみは疲れのせい」と思い、数ヶ月間放置していました。その間、心臓への負担は静かに積み重なり続けていたのです。
    「むくみ+息切れ+体重増加」の三つが重なったら、迷わず循環器内科を受診してください。
    腎臓のむくみ——二つの異なるメカニズム
    腎臓の病気によるむくみには、大きく二つのパターンがあります。
    ネフローゼ症候群型: 腎臓の糸球体に障害が起きると、本来尿に漏れ出るはずのないアルブミン(血液中のタンパク質)が大量に尿中に失われます。アルブミンは血管内の水分を保持する浸透圧を維持する役割を担っていますが、これが低下すると血管内から水分が間質へ大量に染み出し、全身性のむくみが生じます。顔(特に目の周り)にもむくみが出ること、尿が泡立つことが特徴的です。
    慢性腎不全型: 腎機能が低下(eGFR低下)すると、ナトリウムと水分を尿として排泄する能力が落ちます。体内にナトリウムと水分が蓄積することで血管内の水分量が増加し、むくみが生じます。高血圧・糖尿病の長期コントロール不良が背景にあるケースが多いです(コラム㉜参照)。
    片足だけのむくみは「深部静脈血栓症(DVT)」を疑う
    心不全・腎臓・肝臓が原因のむくみは、基本的に両足対称に現れます。一方、片足だけが急にむくむ場合は、深部静脈血栓症(DVT)を強く疑う必要があります。
    DVTとは、下肢の深部静脈に血栓(血の塊)ができた状態です。血栓が静脈の流れを妨げることで、下肢に血液と水分が滞留し、急速なむくみが生じます。むくみと同時に患部の熱感・発赤・痛みを伴うことが特徴です。
    DVTで最も恐ろしいのは、血栓が剥がれて肺の血管を詰まらせる「肺塞栓症」を引き起こすことです。肺塞栓症は突然死の原因になり得る、極めて緊急性の高い疾患です。
    片足だけの急なむくみ+痛み+熱感がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

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    当院での診療アプローチ——「むくみ」を入り口に体全体を診る

    「薬を出す前に、原因を探る」という方針
    当院に「足がむくむ」という訴えで来院される患者さんに対して、私がまず行うのは丁寧な問診です。

    むくみがいつから始まったか、両足か片足か、朝には消えるか、体重の変化はあるか、息切れや動悸を伴うか、服薬内容は何か——これらの情報だけで、かなりの確率で原因のカテゴリーを絞り込むことができます。

    その上で、血液検査(NT-proBNP・アルブミン・腎機能・肝機能)・尿検査(タンパク尿の有無)・心エコー・下肢エコー(静脈血栓の確認)など、必要な検査を組み合わせます。
    BNP——心不全の早期発見に欠かせない指標

    特に重要な検査の一つがNTpro BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体)です。N-BNPは心臓に負荷がかかると分泌されるホルモンで、心不全の診断・重症度評価に非常に有用です。
    BNPが高値の場合、心臓への負荷が高まっていることを示しており、心エコーによる精密評価が必要です。逆にN-BNPが正常であれば、むくみの原因が心臓以外にある可能性が高まります。
    「ただのむくみ」と思って受診した患者さんのN-BNPが著しく高く、心不全の早期治療につながった——そういう経験を、私は外来で何度もしています。むくみを訴える患者さんには、血液検査にN-BNPを加えることを当院では標準的に行っています。

    南千住・荒川区の患者さんへ
    「足がむくむけれど、受診するほどではないかも」と思っている方こそ、一度診てもらうことをおすすめします。
    特に、むくみに加えて息切れ・体重増加・尿の泡立ち・片足だけのむくみ+痛みがある場合は、放置せずに循環器内科・生活習慣病専門の視点から評価を受けてください。

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    ★まとめ
    ・むくみ(浮腫)は間質への水分過剰蓄積で起きます。原因は疲労・塩分から心臓・腎臓・血管疾患まで多岐にわたります

    ・朝には消える・原因に心当たりがある・息切れを伴わない場合は一時的なむくみの可能性が高いですが、継続する場合は受診を検討してください

    ・心不全のむくみは両足対称・圧痕性・朝に消えない・体重増加・息切れが特徴です。「むくみ+息切れ+体重増加」が重なったら迷わず受診してください

    ・腎臓のむくみには、タンパク尿を伴うネフローゼ型と、腎機能低下によるナトリウム貯留型の二種類があります。尿の泡立ち・顔のむくみにも注意してください

    ・片足だけの急なむくみ+熱感+痛みは深部静脈血栓症(DVT)のサインです。肺塞栓症につながる可能性があり、すぐに受診してください

    ・むくみの原因特定にはBNP・腎機能・アルブミン・尿検査・心エコー・下肢エコーを組み合わせた評価が有効です
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    ★よくあるご質問(FAQ)
    Q➤ 毎日夕方に足がむくみますが、朝には消えます。受診は必要ですか?
    A➤ 朝に消えるむくみは一時的な原因(塩分・疲労・長時間同姿勢)によるものが多く、すぐに緊急性は高くありません。ただし、むくみの頻度・程度が増している場合や、息切れ・体重増加を伴う場合は受診をおすすめします。気になるようであれば一度診察を受けてみてください。

    Q➤ 片足だけがむくんでいます。どんな病気が考えられますか?
    A➤ 片足だけのむくみで最も注意が必要なのは深部静脈血栓症(DVT)です。むくみに加えて患部の熱感・発赤・痛みがある場合は、すぐに受診してください。下肢静脈瘤・リンパ浮腫・骨盤内腫瘍による静脈圧迫なども片足むくみの原因になります。

    Q➤ むくみと心不全を見分けるポイントはありますか?
    A➤ 心不全のむくみには「両足対称・圧痕性(押すと跡が残る)・朝に消えない・1週間で2kg以上の体重増加・息切れや夜間の咳」という特徴があります。これらが複数当てはまる場合は、BNP検査・心エコーによる評価が必要です。南千住の当院でも対応しています。

    Q➤ 降圧薬を飲んでいますが、むくみが出てきました。薬の副作用ですか?
    A➤ カルシウム拮抗薬(アムロジピンなど)は足のむくみを引き起こすことが知られています。薬を飲み始めてからむくみが出た場合は、自己判断で中断せず主治医に相談してください。他の降圧薬への変更や利尿薬の追加で対処できるケースがあります。

    Q➤ むくみを自分で改善する方法はありますか?
    A➤ 一時的なむくみには、塩分制限・就寝時の足の挙上(足を心臓より高くする)・ふくらはぎのストレッチ・ウォーキングが有効です。ただし心不全・腎不全が原因のむくみに自己判断で水分を制限するのは危険な場合もあります。原因が特定されていない場合は、まず受診して原因を確認することが先決です。
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    参考文献

    日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版」
    日本腎臓学会「CKD診療ガイド2024」
    日本皮膚科学会「リンパ浮腫診療ガイドライン2018」
    Maisel AS, et al. "Rapid measurement of B-type natriuretic peptide in the emergency diagnosis of heart failure." New England Journal of Medicine, 2002.
    Ely JW, et al. "Approach to leg edema of unclear etiology." Journal of the American Board of Family Medicine, 2006.
    Kearon C, et al. "Antithrombotic Therapy for VTE Disease: CHEST Guideline." Chest, 2016.
    日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2023(JSH2023)」

    このコラムの執筆者

    院長画像

    院長:茂澤 幸右
    糖尿病学会所属・循環器内科専門医


    循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
    血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
    日々の外来で患者さんと向き合っています。
    このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
    外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。

    【経歴】
    日本医科大学医学部 卒業
    日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了

    【資格】
    医学博士
    循環器内科専門医
    内科認定医

    【所属学会】
    日本内科学会
    日本循環器学会
    日本心臓病学会
    日本糖尿病学会
    医師イラスト
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