院長の生活習慣病コラム
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院長の生活習慣病コラム2026/06/23
病院の血圧より、朝起きてすぐの血圧の方がずっと大事です——家庭血圧の正しい測り方と読み方
はじめに——「病院では正常でした」は安心の根拠にならない「先生、病院で測ったら正常でしたよ」——こう言って安心した顔で来院される患者さんが、一定数います。しかし私は内心、「それだけでは判断できない」と思っています。診察室で測る血圧は、あくまでその瞬間の一点の値に過ぎません。緊張、待合室での待ち時間、階段を上ってきた直後、白衣を見た瞬間の緊張感——こうした要素が血圧を簡単に10〜20mmHg押し上げます。
逆に、診察室では落ち着いて正常値を示しながら、日常生活の中では慢性的に高血圧になっている「仮面高血圧」の患者さんも少なくありません。私自身、毎朝血圧を測る習慣を続けています。起床後、トイレを済ませ、座って1〜2分落ち着いてから測る。それを左右両腕で確認する。これが習慣になって久しいですが、自分の血圧の「パターン」を知ることが、いかに大切かを実感しています。
心筋梗塞や脳卒中が最も多く起きるのは、朝の起床後2時間以内です。この時間帯に血圧が急上昇する「モーニングサージ」という現象が、その背景にあります。病院で測る昼間の血圧よりも、朝起きてすぐの家庭血圧の方が、心血管リスクをはるかに正確に反映しているのです。今回は、家庭血圧の本当の意味と、正しい測り方・読み方を循環器内科専門医の立場からお伝えします。
なぜ「家庭血圧」が診察室の血圧より重要なのか
血圧は「一日中変動している」という前提血圧は固定した数値ではありません。起床とともに上昇し、日中は活動に応じて変動し、夜間睡眠中は低下する——この「日内変動」は誰にでも存在します。健康な人でも、起床直後と深夜睡眠中では20〜30mmHgの差があることは珍しくありません。問題は、この変動パターンが人によって大きく異なり、そのパターン自体が心血管リスクを左右するということです。「平均値が高い」だけでなく、「どの時間帯にどう変動するか」が、心臓や血管への負担を決めます。診察室での1回の測定では、この変動パターンをまったく捉えることができません。家庭血圧の方が予後予測に優れている複数の大規模研究が、診察室血圧よりも家庭血圧の方が、脳卒中・心筋梗塞・腎機能低下などの将来リスクをより正確に予測することを示しています。特に重要なのは、日本で行われたOhasama研究(岩手県大迫町)です。この研究では、家庭血圧が高い人は診察室血圧が正常でも心血管イベントのリスクが高く、逆に家庭血圧が正常であれば診察室血圧が高くても比較的リスクが低いことが示されました(Ohkubo T, et al. Journal of Hypertension, 1998)。日本高血圧学会ガイドライン(JSH2023)でも、家庭血圧は「診察室血圧に優先して用いる」と明記されています。これはもはや「家庭血圧も参考にしてください」というレベルではなく、「家庭血圧こそが基準」という位置づけです。
白衣高血圧と仮面高血圧——二つの「見えない真実」診察室血圧と家庭血圧がずれるパターンには、大きく二つがあります(コラム㉒参照)。白衣高血圧: 診察室では高いが、家庭では正常。医療環境での緊張が原因です。白衣高血圧は短期的には心血管リスクが低いとされますが、長期的には真の高血圧に移行するリスクがあるため、経過観察が必要です。仮面高血圧: 診察室では正常だが、家庭や職場では高い。これが最も危険です。「病院では正常だから大丈夫」と安心している間、血管は静かに傷み続けます。
仮面高血圧は、正常血圧の人と比べて心血管イベントリスクが2倍以上になるという報告があります(Pierdomenico SD, et al. American Journal of Hypertension, 2005)。だからこそ、家庭血圧を継続的に記録することが、自分の本当の血圧を知る唯一の方法なのです。
朝の血圧が特に危険な理由——モーニングサージと脳卒中・心筋梗塞
朝6時〜10時は「心血管イベントの魔の時間帯」
脳卒中の発症時刻を調べた研究では、午前6時〜10時に発症が集中することが繰り返し報告されています。心筋梗塞も同様で、この時間帯の発症率は深夜の3〜4倍に達します(Muller JE, et al. New England Journal of Medicine, 1985)。
なぜ朝に心血管イベントが多いのか。その中心的なメカニズムが「モーニングサージ」です。
モーニングサージとは何か睡眠中、血圧は低下しています。これを「夜間降圧」と呼び、健康な人では夜間の血圧が日中より10〜20%低下します。ところが、起床の直前から交感神経が活性化し始め、血圧と心拍数が急激に上昇します。この起床前後の血圧急上昇をモーニングサージと呼びます。
起床から2時間以内の収縮期血圧の平均値が、就寝前2時間の収縮期血圧の平均値より20mmHg以上高い場合、モーニングサージありと判定されます。
モーニングサージが強い人は、脳卒中リスクが最大2.7倍になるという報告があります(Kario K, et al. Circulation, 2003)。特に、夜間の血圧が過度に低下し(過度夜間降圧:extreme dipper)、朝に急激に上昇するパターンが最も危険とされています。モーニングサージが起きるメカニズム
起床とともに、体内では次の変化が連鎖的に起きています。
①交感神経の活性化: 目が覚めると同時に交感神経が優位になり、心拍数と血管抵抗が上昇します。
②レニン・アンジオテンシン系の活性化: 血圧を上げるホルモンシステムが朝方に活性化します。これは進化的に「起きて活動するための準備」ですが、高血圧患者では過剰に働きます。
③血液の凝固能亢進: 朝方は血小板が凝集しやすく、血栓ができやすい状態になっています。血圧急上昇+血栓形成リスク増大が重なるため、脳梗塞・心筋梗塞が起きやすくなるのです。
④起床動作そのものの影響: 横になっていた体を起こす動作、トイレへの移動、冬場の寒さへの露出——これらがすべて血圧を押し上げる刺激になります。
朝血圧を測ることで「モーニングサージ」を捉える
だからこそ、朝の起床後1時間以内に血圧を測ることが重要です。この値が135/85mmHg以上であれば、家庭血圧の基準で高血圧と判定されます(診察室血圧の基準140/90mmHgより低い点に注意)。私の外来では、「朝の血圧だけ高い」という患者さんが一定数います。夜は正常、日中も正常、しかし朝だけ収縮期血圧が150〜160mmHgに達する。こういったパターンは、家庭血圧を測っていなければ絶対に発見できません。そして放置すれば、朝の時間帯に脳卒中・心筋梗塞が起きるリスクを高め続けます。
第3章|測り方次第で10mmHg変わる——家庭血圧の「落とし穴」
「なんとなく測る」と正確な値は出ない
家庭血圧計を持っている患者さんに測り方を聞くと、驚くほどバラバラです。立ったまま測る、食事の直後に測る、腕を心臓より下げたまま測る、測定値が気に入らなくて何度も測り直す——こういった測り方では、正確な値は得られません。
測り方一つで血圧は10mmHg以上変わります。これは降圧薬1剤分の効果に匹敵する誤差です。正確に測れていなければ、薬の調整も、治療効果の判定も、すべてが狂います。
正しい測り方——日本高血圧学会が推奨する手順
測るタイミング朝: 起床後1時間以内、トイレを済ませた後、朝食・薬を飲む前、座って1〜2分安静にしてから
夜: 就寝前、座って1〜2分安静にしてからこの「朝と夜」の2回が基本です。朝は特に重要で、モーニングサージを捉えるためには起床後なるべく早く測ることが大切です。
測定の環境と姿勢椅子に深く座り、背筋を伸ばす
測定する腕は心臓と同じ高さに置く(テーブルに腕を置くと安定しやすい)
足は床につけ、足を組まない
会話しない、スマートフォンを見ない
測定前5分間は安静にするカフの巻き方
カフ(腕帯)は素肌に巻く(厚手の服の上からは不可)
カフの下端は肘の内側から2〜3cm上
カフは指が1〜2本入る程度の締め具合測定回数と記録
1回の測定機会に2回測り、その平均を記録する
「1回目が高かったからもう一度」という測り直しは不可。必ず間隔を1〜2分あけてから2回目を測る
記録は数値だけでなく、「起床後何分か」「薬を飲む前か後か」「体調の特記事項」も書いておくと診察に役立つ上腕式と手首式、どちらが正確か
家庭血圧計には上腕式と手首式があります。精度の点では、上腕式が推奨されています。手首式は、手首の位置が心臓の高さからずれると誤差が大きくなりやすいためです。
「上腕式は巻くのが面倒」という声をよく聞きますが、正確な血圧管理のためには上腕式を選んでいただくことを私はすすめています。特に高血圧の治療中の方は、上腕式を使ってください。
「測るたびに違う」は異常ではない
「毎回値が違うのですが、血圧計が壊れていますか?」と聞かれることがあります。血圧は呼吸のたびに変動する生き物のような数値です。同じ条件で測っても、1回目と2回目で5〜10mmHgの差が出ることは正常範囲内です。
大切なのは1回の値ではなく、正しい方法で継続的に測った「傾向」を見ることです。1週間分の朝・夜の平均値が、治療の判断基準になります。
第4章|数値の読み方と、受診すべきタイミング——当院での活用法
家庭血圧の正常値と高血圧の基準
家庭血圧の基準は、診察室血圧より5mmHg低く設定されています。
分類家庭血圧(収縮期/拡張期)正常血圧115/75mmHg未満正常高値115〜124 / 75mmHg未満高値血圧125〜134 / 75〜84mmHg高血圧(I度)135〜144 / 85〜89mmHg高血圧(II度以上)145/90mmHg以上
(日本高血圧学会ガイドライン JSH2023より)
「135/85mmHg以上が家庭血圧の高血圧基準」と覚えてください。
朝だけ高い・夜だけ高い——パターン別の読み方
朝だけ高い(モーニングサージ型)起床直後の血圧が135mmHg以上で、夜は正常という場合。降圧薬を使用している場合は薬の効果が朝方に切れている可能性があります。薬の種類・投与タイミングの見直しが必要で、必ず主治医に相談してください。
夜の血圧が下がらない(non-dipper型)睡眠中も血圧が高止まりしている状態で、睡眠時無呼吸症候群・腎機能低下・二次性高血圧などが隠れている場合があります。24時間自由行動下血圧測定(ABPM)での評価が必要になることがあります。
日によって大きく変動する血圧変動性(variability)が大きい場合は、脳卒中リスクが高まることが知られています(Rothwell PM, et al. Lancet, 2010)。自律神経の問題、睡眠の質、塩分摂取量の変動などが関係していることが多いです。
すぐに受診すべき血圧の目安収縮期血圧が160mmHg以上が続く
収縮期血圧が180mmHg以上を1回でも記録した
頭痛・めまい・視野の異常・胸痛・呂律が回らない症状が伴う特に180mmHg以上+症状がある場合は「高血圧緊急症」の可能性があり、速やかに医療機関を受診してください。
当院での家庭血圧の活用
当院では、初診・再診問わず、家庭血圧の記録をお持ちいただくことを強くお願いしています。スマートフォンのメモでも、血圧手帳でも構いません。朝・夜の値が1週間分あれば、治療方針の判断が格段に精度が上がります。
「測ってきたけれど、どう読めばいいかわからない」という方も大歓迎です。記録を一緒に見ながら、「あなたの血圧のパターン」を読み解くことも、当院での診療の大切な時間です。
南千住・荒川区・北千住・墨田区エリアで、血圧管理にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。★まとめ
診察室の血圧だけでは「本当の血圧」はわかりません。家庭血圧こそが、心血管リスクの正確な指標です
朝だけ高い・夜が下がらない・変動が大きいなどのパターンは、それぞれ異なるリスクを示します。記録を持って受診してください
心筋梗塞・脳卒中は朝6時〜10時に最も多く発症します。モーニングサージ(起床後の血圧急上昇)がその主因です
朝の血圧は、起床後1時間以内・トイレ後・食事と薬の前・座って安静にしてから測るのが基本です
測り方次第で10mmHg以上の誤差が出ます。上腕式血圧計を使い、正しい姿勢と手順で測ることが大切です
家庭血圧の高血圧基準は135/85mmHg以上です(診察室血圧より5mmHg低い)★よくあるご質問(FAQ)
Q➤ 朝と夜、どちらの血圧が重要ですか?A➤ 心血管リスクの観点では朝の血圧が特に重要です。モーニングサージ(起床後の血圧急上昇)が脳卒中・心筋梗塞の主因となるためです。ただし夜の血圧も「non-dipper型」の検出に欠かせないため、朝・夜両方の記録が理想です。
Q➤ 血圧は何日間記録すれば診察に役立ちますか?A➤ 最低でも5〜7日分の朝・夜の記録があれば、治療方針の判断が可能です。JSH2023では、初診時は14日間の記録が推奨されています。毎日続けることが最も重要で、記録の継続が治療効果の正確な評価につながります。
Q➤ 降圧薬を飲んでいます。薬を飲む前と後、どちらに測ればよいですか?A➤ 朝は薬を飲む前に測ることが原則です。これにより「薬が切れた状態での血圧=最も高い時間帯の血圧」を捉えることができ、薬の効果が24時間持続しているかどうかを確認できます。夜は就寝前に測ります。
Q➤ 家庭血圧計はどれを買えばいいですか?A➤ 上腕式・カフ式で、日本高血圧学会が認める精度基準(ESH-IP認証など)を取得した製品をおすすめします。手首式は携帯性は高いですが誤差が出やすく、治療管理には不向きです。オムロン・テルモ・パナソニックの上腕式モデルが信頼性の高い選択肢です。
Q➤ 血圧が160mmHg以上になったら、すぐ病院に行くべきですか?A➤ 症状(頭痛・めまい・胸痛・視野異常)が伴う場合はすぐに受診してください。症状がなく1回だけ高値だった場合は、翌日の朝・夜も継続して測定し、複数回160mmHg以上が続くようであれば速やかにご相談ください。南千住の当院では、当日のご相談にも可能な限り対応しています。
参考文献
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2023(JSH2023)」
Ohkubo T, et al. "Prediction of mortality by ambulatory blood pressure monitoring versus screening blood pressure measurements." Journal of Hypertension, 1998.
Kario K, et al. "Morning surge in blood pressure as a predictor of silent and clinical cerebrovascular disease in elderly hypertensives." Circulation, 2003.
Muller JE, et al. "Circadian variation in the frequency of onset of acute myocardial infarction." New England Journal of Medicine, 1985.
Pierdomenico SD, Cuccurullo F. "Prognostic value of white-coat and masked hypertension diagnosed by ambulatory monitoring in initially untreated subjects." American Journal of Hypertension, 2005.
Rothwell PM, et al. "Prognostic significance of visit-to-visit variability, maximum systolic blood pressure, and episodic hypertension." Lancet, 2010.このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会