院長コラム
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院長コラム2026/01/13
糖尿病は甘いものを食べない人でも起こります
― 原因・インスリンの仕組み・日本人に多いタイプを循環器内科専門医が詳しく解説 ―
糖尿病というと、
「甘いものを食べ過ぎた結果」
「太っている人の病気」
というイメージを持たれがちです。
しかし実際の診療現場では、
甘いものをほとんど食べない方、見た目は痩せている方が、
健診で血糖値やHbA1cの異常を指摘されて受診されるケースは決して少なくありません。
結論から言うと、
糖尿病は甘いものを食べない人でも起こる生活習慣病です。
その背景には、
「糖の摂り過ぎ」ではなく、
インスリンの働きがうまくいかなくなる仕組みが深く関係しています。
糖尿病とは何が起きている病気なのか
糖尿病を理解するうえで欠かせないのが
インスリンというホルモンです。インスリンは膵臓から分泌され、
血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓などの細胞に取り込ませる役割を担っています。
インスリンをできるだけ分かりやすく例えると
診察室では、次のように説明することが多いです。•血液:道路
•細胞:家
•糖(ブドウ糖):荷物だとすると、
インスリンは「家のドアを開ける鍵」です。
糖は、細胞の中に入って初めてエネルギーとして使われます。
インスリンがなければ、糖は道路(血液)にあふれたままになり、
血糖値が上昇します。
日本人に多いのは「インスリンが出ない糖尿病」ではありません
糖尿病というと、
「インスリンが出なくなる病気」
というイメージを持たれがちですが、
日本人に多いのは少し異なります。
多くの方では、•インスリンはある程度分泌されている
•しかし 効きが悪くなっているという状態が起きています。
これをインスリン抵抗性と呼びます。
鍵はあるのに、
ドアの鍵穴が錆びついたり、ドア自体が固くなっていて開きにくい。ようなイメージです。
そのため、インスリンをいくら出しても糖が細胞に入りにくくなります。なぜ甘いものを食べなくても血糖が上がるのか
「甘いものは控えているのに、なぜ血糖が上がるのか」
という疑問は非常によく聞かれます。
理由は単純で、
白米・パン・麺類などの炭水化物も、体内ではすべて糖になるからです。
さらに、•食事時間が遅い
•夜にまとめて食べる
•運動量が少ない
•長時間座りっぱなしの生活こうした生活習慣が続くと、
筋肉で糖を消費する能力が低下し、
インスリン抵抗性が進行します。
特に日本人は、欧米人に比べて
インスリン分泌能がもともと低いことが知られており、
比較的軽度の生活習慣の乱れでも血糖異常を起こしやすいとされています。
体重が変わらなくても糖尿病は進行します
「体重は昔から変わっていない」
という言葉も、診察室でよく聞きます。
しかし40代以降では、•筋肉量の低下
•基礎代謝の低下
•内臓脂肪の増加が同時に進行します。
体重が同じでも、
体の中身は確実に変化しているのです。
その結果、•見た目は痩せている
•BMIは正常
•しかしHbA1cは徐々に上昇というケースが少なくありません。
循環器内科専門医として特に重視している視点
私は循環器内科を専門とし、
心臓や血管の病気を数多く診てきました。
糖尿病は、
単なる血糖の病気ではなく、血管障害のリスク因子です。
血糖異常が長期間続くと、•動脈硬化の進行
•心筋梗塞
•脳卒中といった重大な疾患のリスクが高まります。
重要なのは、
症状がない早期の段階からリスクは静かに進行している
という点です。
当院で大切にしている診療の考え方
南千住で内科・生活習慣病診療を行う中で、
当院では数値だけを見て判断することはありません。
必ず次の点を確認します。•血糖測定のタイミング(空腹時・食後)
•HbA1cの推移
•中性脂肪・脂肪肝の有無
•体重・腹囲・筋肉量の変化
•食事内容と生活リズム
•仕事や日常生活での活動量これらを総合的に評価し、
•生活改善で十分な段階か
•薬物療法を検討すべき段階かを慎重に判断します。
早期であれば、薬を使わずに改善できることも多い
糖尿病は、
「どの段階で気づけるか」が非常に重要です。
インスリンがまだ一定程度働いている段階であれば、•食事の順番を工夫する
•夜遅い食事を控える
•無理のない有酸素運動を習慣化するといった生活改善だけで、
血糖が安定する方も少なくありません。よくあるご質問(Q&A)
Q1. 甘いものを控えるだけでは不十分ですか?
A. はい。主食量(1日の総カロリー)、食事時間、運動習慣が重要です。Q2. インスリン抵抗性とは何ですか?
A. インスリンは分泌されているのに、体が反応しにくくなる状態です。Q3. HbA1cが6%台でも受診した方がよいですか?
A. はい。早期評価が将来の治療負担を減らします。Q4. 食後血糖だけ高い場合も問題になりますか?
A. なります。将来的な糖尿病・動脈硬化リスクと関連します。Q5. 薬を使わずに改善できるケースはありますか?
A. 早期であれば生活習慣の見直しのみで安定する方もいます。当院の考え方
生活習慣病は、
怖がらせるものではなく、正しく理解して付き合うものです。
数値だけに一喜一憂するのではなく、
「なぜ今この状態なのか」を一緒に整理し、
将来のリスクを減らすことを大切にしています。参考文献
1.American Diabetes Association.
Standards of Care in Diabetes—2024. Diabetes Care. 2024.
2.日本糖尿病学会.
糖尿病診療ガイドライン 2023. 南江堂.
3.DeFronzo RA.
Insulin resistance, lipotoxicity, type 2 diabetes. Nat Rev Endocrinol. 2015.
4.Yabe D, et al.
β-cell dysfunction and insulin resistance in Japanese subjects. J Diabetes Investig. 2015.
5.日本循環器学会.
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版.
文責:茂澤メディカルクリニック南千住
院長 茂澤 幸右(糖尿病学会所属・循環器内科専門医)