院長コラム
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院長コラム2026/03/24
家族性コレステロール血症とは? ― 若くして心筋梗塞を起こす人に共通する“見逃されがちな病気” ―
大学病院勤務をしているときに若くして心筋梗塞を発症する方を経験してきました。
たいていの場合は「親がコレステロールの薬を飲んでる」
「若い頃から健診でコレステロールが高いと言われていました」このようなケースで、必ず疑うべき疾患があります。
それが
家族性コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia:FH)です。FHは単なる「コレステロールが高い体質」ではありません。
動脈硬化が極めて早く進行し、若年で心筋梗塞を引き起こす病気です。
そして重要なのは
👉 適切に治療すればリスクを大きく下げられる
という点です。
今回は循環器専門医として
・FHとは何か
・なぜ心筋梗塞と強く関係するのか
・見逃してはいけないポイントを解説します。
そもそも家族性コレステロール血症とは何か
家族性コレステロール血症(FH)は、
LDLコレステロールが著しく高くなる遺伝性疾患です。原因は主に
・LDL受容体(LDL receptor)異常
・ApoB異常
・PCSK9変異などで、血中のLDLが処理されずに蓄積します。
病態の本質
通常、LDLコレステロールは
肝臓の受容体によって回収されます。しかしFHでは
👉 回収機能が低下する
ため、
👉 血中LDLが慢性的に高値
となります。
数値の特徴
・LDLコレステロール:180 mg/dL以上
(多くは200〜300以上と基準値を大幅に上回るケースが多いです。)重要なポイント
FHは決して稀ではなく
👉 約200〜300人に1人
とされており、
一般診療でも十分遭遇する疾患です。
なぜ若くして心筋梗塞を起こすのか
FHの最大の問題は
👉 動脈硬化が極端に早く進むこと
です。
リスクはどれくらい高いか
代表的な研究では
👉 FH患者の冠動脈疾患リスク
約10〜20倍(Nordestgaard et al. Eur Heart J)
なぜ早く進むのか
通常の動脈硬化は
👉 30〜40年かけて進行
しますが、
FHでは
👉 子どもの頃からLDLが高い
ため、
👉 累積曝露(LDL burden)が圧倒的に多い
外来ではこう説明しています。
「普通の方が40年かけて受けるダメージを
FHの方は20代で受けてしまうイメージです。」そして、FHの方の心臓を栄養する血管(冠動脈)は1か所ピンポイントで狭いということは少なく、3本中3本とも動脈硬化が進んでいるケースが珍しくありません。
その場合はカテーテルでの治療は困難で外科的にバイパス手術を選択することが多いです。
見逃されやすい身体所見(黄色腫・アキレス腱)
FHには特徴的な身体所見があります。
① アキレス腱肥厚
👉 もっとも重要な所見
・腱が分厚くなる
・触ると硬い
・X線で肥厚確認(9mm以上)② 腱黄色腫
・手指、肘、膝
・コレステロール沈着③ 眼瞼黄色腫
・まぶたの黄色い脂肪沈着
見逃される理由
・症状がない
・整形外科や皮膚科で終わる
・若年なので疑われない
早期治療が人生を変える
FHは放置すると
👉 若年で心筋梗塞
しかし
👉 適切な治療でリスクは大きく低下
します。
治療の基本
・スタチン
・エゼチミブ
・PCSK9阻害薬目標
👉 LDL < 70 mg/dL(高リスク)
エビデンス
スタチン治療により
👉 心血管イベント約30〜50%減少
(CTT Collaboration)重要な考え方
FHでは
👉 「生活習慣だけで改善」は難しい
ため
👉 早期薬物療法が基本
当院の考え方
当院では
・LDLが高い
・若年で異常
・家族歴ありこうした場合には
👉 FHを積極的に疑い、詳しく問診や身体診察を行います。
また
・アキレス腱
・家族歴
・動脈硬化評価を総合的に見て
👉 将来の心筋梗塞を防ぐ診療
を行っています。
そして診断した患者さんには必ず、血縁関係のあるご家族にも今一度コレステロールが高いと指摘を受けている方がいないかを確認してもらうように外来でお伝えしております。
まとめ
・FHはありふれた疾患
・若くして心筋梗塞の原因
・身体所見が重要
・早期治療で予後改善
参考文献
Nordestgaard BG, et al. Eur Heart J. 2013
日本動脈硬化学会 ガイドライン
CTT Collaboration. Lancet. 2010
Goldstein JL, Brown MS. Cell. 2015このコラムの執筆者
院長:茂澤 幸右
糖尿病学会所属・循環器内科専門医
循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
日々の外来で患者さんと向き合っています。
このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。
【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了
【資格】
医学博士
循環器内科専門医
内科認定医
【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会