院長コラム
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院長コラム2026/01/21
年齢で変わる糖尿病治療の考え方 (目標値や治療方針について)
糖尿病治療について、
「HbA1cは何%を目指せばいいのか」
という質問は非常に多いのですが、外来では私はすぐに数字を答えません。なぜなら、糖尿病治療は
年齢・生活背景・将来どんな病気を防ぎたいか
によって、目標値も治療の組み立て方も変わるからです。同じHbA1c 7.2%でも、
30代と80代では意味がまったく違います。
糖尿病治療は「数字合わせ」ではなく、人生設計に合わせた医療です。
30〜40代の糖尿病治療は「将来の心臓・腎臓病を防ぐ治療」
30〜40代で糖尿病と診断された場合、
私がまず頭に描くのは 10年後・20年後の心筋梗塞や腎不全をどう防ぐか です。この年代では、
・低血糖リスクは比較的低い
・生活改善の余地が大きい
・治療による“先行投資効果”が高いという特徴があります。
目標HbA1cは、原則として
7.0%未満
状況によっては 6.5%未満 を目指すこともあります。治療戦略としては、
▪ まず食事・体重・運動の整理をします。
▪ 早い段階でメトホルミン系薬を検討
▪ 体重増加を避けたい場合はSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を視野に「まだ若いから様子見」ではなく、
若いからこそ、ここで手を打つ
それがこの年代の糖尿病治療です。体重の適性化がとても重要で、それにより不必要な薬物療法に移行せずにフォローできることもすくなくありません。
50代の糖尿病治療は「合併症が現実味を帯びる時期」
50代になると、糖尿病治療の景色が少し変わります。
血圧や脂質異常症を合併している方が増え、
心血管リスクが一気に現実的な問題になってきます。この年代では、
HbA1cは 7.0%前後 を目標にしつつ、
「血糖だけを見る治療」から
「血圧・脂質・体重を含めた治療」に切り替えていきます。薬物療法の考え方としては、
▪ 低血糖を起こしやすい薬は慎重に
▪ 心血管保護効果が示されている薬剤を優先
▪ 仕事や生活リズムを崩さない処方外来では、
「数値はそこそこだけど、薬が増えてきた」
という方が増える時期でもあります。ここで大切なのは、
治療が増える=悪化ではない
という理解です。薬物療法としては臓器保護効果もあるSGLT2阻害薬を軸に、肥満があればBG類やGLP1作動薬なども組み合わせて治療を開始することが多いです。
適切に血液検査や体重をフォローして用量などは管理が必要となります。
60代の糖尿病治療は「バランス」を意識
60代では、糖尿病治療は明確に“バランスの医学”になります。
糖尿病の合併症予防と行き過ぎた治療による低血糖の回避、その両立が求められます。目標HbA1cは
7.0%前後
ただし、
・ふらつき
・夜間低血糖
・食事量のばらつきがある場合は、無理に下げません。
薬物療法では、
▪ 低血糖リスクの少ない薬を中心に
▪ 腎機能を見ながら薬剤選択
▪ 「効きすぎない」ことを重視外来では私は、
「血糖を下げること」と「生活を壊さないこと」
この2つを常に天秤にかけています。
特にSU薬やインスリン注射は低血糖を引き起こすリスクが高く導入には慎重に判断をします。
またSGLT2阻害薬なども性器・尿路感染症を増加させる可能性がある場合は事前により具体的な生活指導を行います。
75歳以上の糖尿病治療は「安全に生きるための医療」
75歳を超えると、糖尿病治療の目的ははっきり変わります。
この年代で一番避けたいのは、低血糖による転倒・骨折・認知機能低下です。高齢者糖尿病診療ガイドラインでは、
HbA1c 7.5〜8.0%程度 を目安とし、
ADLや認知機能に応じてさらに緩やかに設定します。薬物療法では、
▪ 低血糖を起こしやすい薬は原則避ける
▪ 「少ない薬で安全に」を最優先
▪ 家族や介護環境も考慮私は外来でよく、
「点数を競う試験ではありません」
とお話しします。この年代の糖尿病治療は、
安全に日常生活を送るための医療です。中にはストイックな患者さんもいて、絶対に6%台になりたいと鼻息を荒く、大好きなお酒や食事を過度にきりつめる患者さん(やご家族)もいらっしゃいます。
上述の目標値を下回り、必要な生活の楽しみも人生においては重要だと考えますので正しい医療知識をお伝えしつつ無理ない範囲で治療に取り組めればと思います。文責:茂澤メディカルクリニック南千住
院長 茂澤 幸右(糖尿病学会所属 循環器内科専門医)
参考文献
・日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024
・日本老年医学会 高齢者糖尿病診療ガイドライン
・UK Prospective Diabetes Study (UKPDS), Lancet
・ADVANCE Study Group, NEJM
・ADA Standards of Medical Care in Diabetes
文責:茂澤メディカルクリニック南千住
院長 茂澤 幸右(糖尿病学会所属・循環器内科専門医)