院長コラム
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院長コラム2026/01/28
糖尿病のある方で私が心臓について必ず確認していること
糖尿病は「血糖の病気」と思われがちですが、循環器内科専門医でもある私の視点では少し違います。
糖尿病は、血管がじわじわ傷つくことで、心筋梗塞・狭心症・心不全・脳卒中の土台を作る病気です。私が外来でよく使う例えがあります。
糖尿病は“血管のサビ”。サビは静かに広がって、ある日ドア(血管)が開かなくなる。
だから、血糖だけ見て「きれいですね」で終わると、肝心のドアの具合を見落とします。糖尿病の方を診るとき、私は必ず「心臓ならびに主要臓器の危険信号が出ていないか」をセットで確認します。
今回のコラムでは、その私の頭の中で考えている“チェック項目”を分かりやすく整理します。
まず確認するのは「心筋梗塞が近い人」を見つける視点
糖尿病があるだけで、動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳卒中など)のリスクは上がります。
さらに怖いのは、糖尿病の方は“痛みが出にくい心筋梗塞(無痛性虚血)”が一定数いることです。
だから私は、胸の症状の有無だけで安心しません。外来で最初に頭の中で確認するのは、次の3点です。
▪ 胸の症状(典型的な胸痛だけでなく)
・階段で息切れが増えた
・胸が重いというより「だるい」「疲れやすい」
・食後や寒い日に調子が悪い
→ 糖尿病では、こういう“ぼんやりした訴え”が心臓サインのことがおうおうにしてあります▪ リスクの積み重ね(血糖以外)
・血圧(目安は多くの方で130/80未満を意識。家庭血圧も重視)
・LDLコレステロール(糖尿病は原則、動脈硬化リスクとして管理を強める)
・喫煙、家族歴、慢性腎臓病(腎機能の低下や蛋白尿)
→ 糖尿病+腎機能低下は、心血管リスクが一段上がる印象です▪ “検査の入口”としての心電図
・健診の心電図に所見がある
・以前と変化がある
→ これだけで即危険とは限りませんが、見逃しの穴を埋めるための第一歩になりますここでのポイントは、
「糖尿病=血糖の病気」ではなく
「糖尿病=血管イベントのリスクを抱えた状態」
として扱うことです。血液データの数値だけをみるのではなく、前述の家族歴や他の生活習慣などの背景もふくめ、その患者さんのトータルリスクを分析しています。
次に見るのは「心不全の芽」— とくに息切れ型(心臓の拡張する能力が低下するタイプの心不全)
近年、糖尿病と関連が深い循環器疾患として、心不全がとても重要になっています。
心不全は「心臓が止まる病気」ではなく、ざっくり言えば“心臓の元気が落ちて、体に血液を回しきれない状態”です。糖尿病の方で私が特に意識しているのは、
▪ 心臓が硬くなるタイプです。
➤ 心臓のポンプ力は保たれているが心臓の壁が硬くなることで柔軟に拡張することができなくなり心不全にいたるケースがこれに当たります。
高血圧、肥満、糖尿病が重なると起きやすく、症状は「息切れ」「むくみ」「疲れやすい」など地味です。外来で私が心不全の芽を拾うために確認すること:
▪ 症状
・坂道や階段で息切れが増えた
・夕方に靴がきつい/足がむくむ
・夜間の咳、横になると息苦しい
▪ 体重の推移
・数週間で2kg以上増える、むくみが出る
→ “脂肪が増えた”ではなく“水分が増えた”可能性がある
▪ 診察所見
・脈の乱れ、心雑音、肺の音、下腿浮腫
▪ 必要に応じた検査
・血液項目の心不全マーカーであるBNP/NT-proBNP、胸部X線、心エコー糖尿病の治療は血糖を下げるだけでなく、
「心不全を起こさない体にしていく」
という視点が、今の時代はかなり重要です。SGLT2阻害薬が心不全入院を減らす方向の結果を多くの大規模試験で示してきたことも、臨床の空気を変えました。
私が必ずセットで見る「腎臓・脂質・血圧」— 心臓に関連する大事な項目
糖尿病の診療で心臓を守るには、血糖だけでは足りません。
私は外来で、血糖を“主役”にしつつ、次の3つを“準主役”として毎回頭の中で考えます。
(学級委員は血糖。いくら学級委員が優秀だったとしても副委員長が暴れるとクラスは荒れます)血圧
▪ 糖尿病+高血圧は、心筋梗塞・脳卒中のリスクを強く押し上げます
▪ 目安として多くの方で130/80未満を意識(個別調整はもちろん)
▪ 家庭血圧が特に重要(仮面高血圧は“見えない高血圧”です) 👈こちらは別コラムで詳しく解説しております。脂質(LDLコレステロール)
▪ LDLは「血管の壁にコレステロールがたまる力」そのもの
▪ 糖尿病がある方は、動脈硬化予防として管理を強めることが多い
▪ すでに心筋梗塞・狭心症などがある方(いわゆる二次予防)はより厳格に腎臓(eGFR・尿アルブミン/蛋白)
▪ 腎臓は血管の塊です。腎機能が落ちる=血管が弱っているサイン
▪ eGFR低下や尿アルブミン陽性は、心血管イベントのリスク評価で重要
▪ 糖尿病では「腎臓の変化が心臓の未来を教えてくれる」ことが多いつまり、糖尿病の方の循環器チェックは
血糖・血圧・脂質・腎臓を“ワンセット”で扱うのが王道です。
どれか一つだけ良くても、残りが荒れていると、血管は守りきれません。
治療の“戦術”は年齢とリスクで変える:私の頭の中の順番
糖尿病治療というと、「血糖値を下げること」が一番の目的だと思われがちです。
もちろんそれは大切ですが、循環器内科の立場から見ると、もう一段階先を考えます。▪ 糖尿病がある方で本当に怖いのは
・心筋梗塞
・心不全
・腎機能の悪化
といった、血管を介した合併症です。特に最近は「心腎連関」という考え方が重視されています。
心臓と腎臓は別々の臓器ですが、どちらかが悪くなると、もう一方も連鎖的に悪くなりやすい。
糖尿病は、その両方に負担をかける病気です。そのため、現在の糖尿病治療では
▪ どの薬で血糖を下げるか
▪ 心臓や腎臓に良い影響があるか 【臓器保護の観点】
という視点が非常に重要になっています。薬物治療の柱として
▪ SGLT2阻害薬
この薬は、血糖を尿に出すことで下げるだけでなく、
・心不全による入院を減らす
・腎機能低下の進行を抑える
といった効果が、大規模臨床試験で示されています。「血糖の薬なのに、心臓と腎臓を守る」
少し不思議に聞こえるかもしれませんが、今では循環器・腎臓の分野でも非常に重要な薬です。また
▪ GLP-1受容体作動薬
についても、
・心血管イベント(心筋梗塞など)を減らす
・体重減少を通じて血圧や脂質にも良い影響を与える
といった点が注目されています。もちろん、すべての方に同じ薬を使うわけではありません。
年齢、体力、腎機能、低血糖のリスク、生活背景によって、最適な治療は変わります。私は外来で
「この方は、まず血糖を下げるだけでいいのか」
「それとも、心臓や腎臓を意識した薬を早めに使うべきか」
ということを、毎回頭の中で組み立てています。糖尿病治療は、単なる数値合わせではありません。
将来の心臓・腎臓のトラブルをどれだけ防げるか。
その視点を持つことで、治療の意味は大きく変わります。当院では、
▪ 糖尿病
▪ 高血圧
▪ 脂質異常症
を一つの流れとして捉え、心臓・腎臓まで含めた治療を行っています。――――――――――
文責:茂澤メディカルクリニック南千住
院長 茂澤 幸右【経歴】
日本医科大学医学部 卒業
日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了【資格】
医学博士
日本循環器学会認定 循環器内科専門医
日本内科学会認定 内科認定医【所属学会】
日本内科学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
日本糖尿病学会【専門分野】
循環器疾患(特に虚血性心疾患・弁膜症性心疾患)
糖尿病・動脈硬化疾患
参考文献
・日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024
・日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2023
・日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022
・UK Prospective Diabetes Study (UKPDS), Lancet
・EMPA-REG OUTCOME, N Engl J Med
・CANVAS Program, N Engl J Med
・DECLARE–TIMI 58, N Engl J Med
・LEADER, N Engl J Med
・SUSTAIN-6, N Engl J Med
・DAPA-HF / EMPEROR-Reduced / EMPEROR-Preserved, N Engl J Med
文責:茂澤メディカルクリニック南千住
院長 茂澤 幸右(糖尿病学会所属・循環器内科専門医)