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院長の生活習慣病コラム

  • 院長の生活習慣病コラム
    2026/07/21

    「かくれ脱水」が血圧・血糖・脂質を悪化させる ― 生活習慣病と水分不足の見えない関係

    こんにちは。茂澤メディカルクリニック南千住、院長の茂澤です。
    今年も南千住・荒川区では厳しい暑さが続いております。診察室でも「最近なんだか体がだるい」「血圧の数値がいつもと違う」「血糖値が急に高くなった」といったご相談を、この時期は特に多くいただきます。

    その原因、実は「脱水」にあることが少なくありません。
    脱水というと、めまいや立ちくらみ、熱中症のような急性の症状をイメージされる方が多いと思います。しかし、私が外来で日々感じているのは、もっと静かに、もっと慢性的に進行する「かくれ脱水」の怖さです。本人が喉の渇きをまったく自覚しないまま、じわじわと血液が濃縮し、血圧・血糖・脂質という生活習慣病の三本柱すべてに悪影響を及ぼしているケースを、これまで数えきれないほど診てまいりました。

    今回のコラムでは、循環器内科専門医・糖尿病学会所属の立場から、脱水が生活習慣病にどのように影響するのか、そのメカニズムを一つひとつ丁寧に解説してまいります。

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    脱水が引き起こす「血液濃縮」という異変

    脱水とは、体内の水分量が不足した状態を指しますが、医学的に重要なのは「血液がどう変化するか」という点です。

    体内の水分が減少すると、血液中の水分(血漿)の割合が相対的に減り、血液の粘度が上昇します。これを「血液濃縮」と呼びます。血液がドロドロになった状態をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
    この血液濃縮は、単に血流が悪くなるというだけの話ではありません。ヘマトクリット値(血液中に占める赤血球の割合)の上昇、血漿浸透圧の上昇、そして凝固能の亢進(血が固まりやすくなること)まで、多方面に影響が及びます。

    私が特に注意を促したいのは、高齢の患者さんです。加齢とともに口渇中枢の感受性が低下し、体が脱水状態にあっても「喉が渇いた」と感じにくくなることが、老年医学領域の研究でも指摘されています。実際に当院にいらっしゃる高齢の患者さんの中にも、「水分はちゃんと摂っているつもり」とおっしゃりながら、採血データ上は明らかな血液濃縮所見を示されている方が少なくありません。

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    当院での取り組み
    当院では、高血圧・糖尿病・脂質異常症で定期通院されている患者さんに対し、季節の変わり目や猛暑日が続く時期には、採血時にヘマトクリット値・BUN(尿素窒素)・Cr(クレアチニン)の比率(BUN/Cr比)を確認し、脱水傾向がないかを積極的にチェックしております。BUN/Cr比の上昇は脱水の一つのサインとなるため、こうした数値の変化から「かくれ脱水」を早期に発見し、水分摂取量の見直しをご提案する体制を整えております。
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    なぜ脱水で血圧が上がる(あるいは乱れる)のか

    脱水と血圧の関係は、実は単純な「上がる」だけではなく、非常に複雑です。

    まず短期的には、体が血管内の水分減少を感知すると、代償反応として交感神経系が活性化し、心拍数の増加・血管収縮が起こります。これにより、一時的に血圧が上昇することがあります。同時に、抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌が増加し、腎臓での水分再吸収を促進すると同時に、血管収縮作用を通じて血圧上昇に寄与することも知られています。

    一方で、脱水が進行し循環血液量そのものが大きく減少すると、今度は逆に血圧が低下し、起立性低血圧(立ち上がった際にふらつく状態)を引き起こすこともあります。これが、脱水による血圧変動が「読みにくい」とされる理由です。
    さらに私が臨床上、特に注意すべきと考えているのは、降圧薬を服用中の患者さんです。利尿薬(サイアザイド系など)やARB・ACE阻害薬を服用されている方が脱水状態に陥ると、腎血流の低下と相まって、急性腎障害のリスクが上昇することが日本高血圧学会のガイドラインでも注意喚起されています。「薬を飲んでいるから安心」ではなく、「薬を飲んでいるからこそ、水分管理により一層の注意が必要」というのが、私が外来でお伝えしていることです。

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    当院での取り組み
    当院では、利尿薬やRAS系阻害薬(ARB・ACE阻害薬)を服用されている患者さんには、夏季に入る前に必ず「脱水時の対応」についての説明を行っております。具体的には、家庭血圧の記録に加え、体重の急激な変動(1〜2kg以上の減少)がないかをセルフチェックいただくようお願いしており、必要に応じて利尿薬の一時減量・休薬をご提案する場合もございます。自己判断での中断はかえって危険ですので、必ず当院にご相談いただく体制をとっております。
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    脱水が糖尿病を悪化させる悪循環のメカニズム

    脱水と血糖値の関係は、糖尿病を診療する専門医として、特に強調しておきたいポイントです。

    高血糖状態にあると、腎臓の糸球体で濾過される糖の量が増加し、それに伴い尿量が増える「浸透圧利尿」という現象が起こります。つまり、血糖値が高いこと自体が脱水を招きやすい状態を作り出しているのです。
    さらに厄介なのは、ここからの悪循環です。脱水によって血液が濃縮されると、血糖値そのものの数値も相対的に高く出やすくなります。加えて、脱水状態では抗利尿ホルモンや、血糖値を上げる方向に働くコルチゾール・成長ホルモンなどのストレスホルモンの分泌も亢進しやすく、インスリンの働きにも悪影響を及ぼすことが報告されています。

    私が過去に経験した症例でも、真夏の炎天下で水分補給を怠り、著しい高血糖と脱水が重なって救急搬送となったケースがございました。糖尿病の患者さんにとって「暑い時期の水分不足」は、単なる不快感の問題ではなく、命に関わる急性合併症(高浸透圧高血糖症候群など)につながりうる、決して軽視できないテーマなのです。

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    当院での取り組み
    当院では、糖尿病患者さんの夏季診療において、HbA1cだけでなく、その時々の血糖値と併せて口渇・多尿・体重減少といった脱水の初期症状についても必ず問診で確認しております。特にSGLT2阻害薬を服用中の患者さんは、薬剤の作用機序上、尿から糖を排出する際に水分も一緒に失われやすいため、夏季は特に意識的な水分摂取を行っていただくよう、繰り返しご説明しております。
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    脂質異常症への影響 ― 見落とされがちな脱水と血液粘度の関係

    脱水が脂質異常症に与える影響については、血圧や血糖ほど広く知られていませんが、循環器内科の視点から見ると非常に重要なテーマです。

    脱水により血漿量が減少すると、血液中のコレステロールや中性脂肪の「濃度」自体が相対的に上昇して測定されることがあります。つまり、脱水状態での採血では、本来の脂質値よりも高い数値が出てしまう可能性があるのです。これは、健診結果を評価する際に、私たち医師が必ず考慮すべきポイントの一つです。

    さらに重要なのは、血液濃縮による血液粘度の上昇そのものが、動脈硬化の進行リスクと関連するという点です。血液がドロドロの状態が慢性的に続けば、血管内皮に対する負荷が増大し、これは脂質異常症による動脈硬化リスクと相加的に作用する可能性があると考えられています。特に、もともとLDLコレステロールが高めの患者さんが夏場の脱水を繰り返すことは、血管という観点からは「二重のリスク」を抱えることになりかねません。

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    当院での取り組み
    当院では、脂質異常症で通院中の患者さんの採血結果に、季節による変動や脱水の影響が疑われる場合には、単回の数値だけで安易に薬剤調整を行うのではなく、水分摂取状況の聞き取りを行った上で、必要であれば時期を改めて再検査をご提案するなど、丁寧な評価を心がけております。
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    ★まとめ
    ・脱水は血液濃縮を引き起こし、血圧・血糖・脂質のすべてに影響を及ぼします
    ・脱水時の血圧は交感神経活性化により上昇することもあれば、進行すると低下し起立性低血圧を招くこともあります
    ・利尿薬やARB・ACE阻害薬服用中の方は、脱水による急性腎障害のリスクに特に注意が必要です
    ・高血糖自体が脱水を招き、脱水がさらに血糖値を悪化させるという悪循環が存在します
    ・脂質異常症の数値も脱水により見かけ上高く出ることがあり、血液粘度の上昇は動脈硬化リスクにも関わります
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    ★よくあるご質問(FAQ)
    Q➤喉が渇いていなければ、脱水の心配はありませんか?
    A➤いいえ、加齢とともに口渇中枢の感受性が低下し、脱水があっても喉の渇きを感じにくくなります。特に65歳以上の方は自覚症状に頼らず、こまめな水分摂取を意識してください。

    Q➤血圧の薬を飲んでいますが、夏はどのくらい水分を摂ればよいですか?
    A➤個々の腎機能や心機能により異なりますが、目安として1日1.2〜1.5リットル程度の飲水が推奨されるケースが多いです。当院で処方内容に応じた具体的な目安をお伝えします。

    Q➤経口補水液は生活習慣病があっても飲んで大丈夫ですか?
    A➤経口補水液には塩分・糖分が含まれるため、高血圧や糖尿病の方は摂りすぎに注意が必要です。日常的な水分補給には水やお茶を基本とし、明らかな脱水症状がある時のみ経口補水液をご検討ください。

    Q➤健診で急にコレステロール値が上がっていました。原因は脱水でしょうか?
    A➤可能性の一つとして考えられます。採血時の脱水状態により数値が高めに出ることがあるため、当院では水分摂取状況も踏まえて総合的に評価し、必要に応じて再検査をご提案しています。

    Q➤糖尿病の薬(SGLT2阻害薬)を飲んでいますが、夏場に注意することはありますか?
    A➤SGLT2阻害薬は尿から糖と一緒に水分も排出されやすいため、通常より意識的な水分摂取が必要です。口渇・めまい・体重減少などがあれば早めに当院へご相談ください。
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    参考文献

    参考文献
    ・日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
    ・日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
    ・日本老年医学会 高齢者の脱水に関する診療指針
    ・国内外の脱水と血液粘度・動脈硬化リスクに関する臨床研究報告
    文責:茂澤メディカルクリニック南千住 院長 茂澤幸右/糖尿病学会所属 循環器内科専門医

    このコラムの執筆者

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    院長:茂澤 幸右
    糖尿病学会所属・循環器内科専門医


    循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
    血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
    日々の外来で患者さんと向き合っています。
    このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
    外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。

    【経歴】
    日本医科大学医学部 卒業
    日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了

    【資格】
    医学博士
    循環器内科専門医
    内科認定医

    【所属学会】
    日本内科学会
    日本循環器学会
    日本心臓病学会
    日本糖尿病学会
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