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    2026/05/18

    「1日3食が正解」は本当か?循環器専門医が血圧・血糖・心臓の視点で両論を徹底整理

    はじめに
    「1日3食きちんと食べなさい」——子どもの頃から親に言われ続け、健康番組でも繰り返されるこの"常識"。しかし私が診察室で毎日接している患者さんの中には、2食にしてから血圧や血糖値が安定したという方が少なくありません。一方で、1食抜いたら逆に体重が増えた、という方もいる。
    「1日何食が正解か」——これ、実は医学的に意外なほど決着がついていない問いです。
    私は南千住で循環器内科クリニックを営んでいます。毎日、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心不全の患者さんと向き合う中で、「食事の回数」が血管に与える影響を考える機会は非常に多い。この記事では、3食派・2食派それぞれのエビデンスを公平に並べながら、「あなたにとっての正解」を見つけるための考え方をお伝えします。

    ① そもそも「1日3食」はいつからの習慣なのか
    日本人が1日3食を食べるようになったのは、江戸時代中期以降とされています。それ以前の農民・武士の多くは1日2食が基本でした。つまり「3食が人間本来の食事回数」という根拠は、文化的・歴史的にはほとんどありません。
    3食文化を広めた背景には、産業革命以降の労働サイクルとの相性の良さがあります。朝・昼・晩と1日を3分割して食事を組み込むことは、社会的な合理性があったのです。しかし「体にとって最適かどうか」とは別の話です。
    現代の栄養学・循環器医学の観点から見ると、食事の回数と健康アウトカムの関係は「何回食べるか」よりも「いつ・何を・どれだけ食べるか」に大きく左右されます。

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    「1日2食」のエビデンス——実は思ったより多い

    ▪ 体重・インスリン感受性への効果
    2014年にDiabetologia誌に掲載されたPavlovaらの研究では、カロリー総量を同じにした場合、1日6回の少量食より1日2回の食事のほうが、2型糖尿病患者の体重・空腹時血糖・インスリン抵抗性の改善が優れていたと報告されています。これは食事の「頻度を下げて1食の量を増やす」ことが、インスリン分泌のリズムをより良い形でリセットする可能性を示唆しています。
    ▪ 間欠的ファスティング(断食)との関係
    2食制は、多くの場合「夜から翌朝昼まで14〜16時間の絶食」を自然に生み出します。この時間帯に起きるオートファジー(細胞の自己修復)の活性化は、2016年のノーベル生理学・医学賞(大隅良典博士)で注目を集めました。動脈硬化の進行抑制や血管内皮機能の改善との関連も研究が進んでいます。
    ▪ 心臓病リスクとの関係(新しいデータ)
    2023年にCirculation誌で発表されたアメリカ心臓協会(AHA)の声明は、食事のタイミングとパターンが心血管疾患リスクに影響するという見解を示しました。特に早い時間帯に食事をまとめ、夜遅くに食べないパターンは、代謝的に有利とされています。2食制でこのパターンを実践することは、理にかなっています。
    私のクリニックでも、「朝食と昼食の2食にして夕食をやめた」患者さんが、収縮期血圧が10mmHg程度改善したケースを経験しています。ただし、これは他の生活習慣の変化も伴っていたため、2食単独の効果とは言い切れません。

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    「1日3食」を支持するエビデンス——特に循環器疾患では無視できない

    一方で、3食を支持するデータも根強く存在します。一方的に2食を推奨することは、特定の患者層において危険を伴う可能性があります。

    ▪ 朝食スキップと心血管イベントリスク
    Journal of the American College of Cardiology(JACC)2019年掲載の研究では、朝食を抜く習慣のある人は、心血管疾患による死亡リスクが有意に高かったと報告されています(ハザード比1.87)。ただしこの研究は「朝食スキップ」の背景にある生活習慣全体の影響を分離しきれておらず、単純に朝食が心臓を守るとは言えません。

    ▪ 血糖値スパイクの問題
    3食の間隔(4〜6時間)に比べ、2食では1食あたりの糖質摂取量が増えやすく、食後血糖スパイクが大きくなるリスクがあります。糖尿病患者や耐糖能異常のある方では、1回の食事で一気に大量の糖質を摂取することが血管ダメージにつながります。2食にするからこそ、1食の内容管理が非常に重要になります。

    ▪ 高齢者・サルコペニアへの懸念
    日本老年医学会のガイドラインでは、65歳以上では筋肉量の維持のために1日のたんぱく質摂取を複数回に分散させることが推奨されています。1回のたんぱく質摂取量が30〜40gを超えると筋タンパク合成の効率が頭打ちになることが知られており、2食で必要なたんぱく質(体重×1.0〜1.2g)を確保するためには、食事内容に相当な注意が必要です。

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    循環器内科医として伝えたい「食事回数より大切なこと」

    診察室での実感として、食事の回数を何食にするかよりも、次の3点のほうが血圧・血糖・心臓への影響ははるかに大きいと感じています。
    ▪ 食べる「時間帯」
    深夜の食事(特に就寝前2時間以内)は、血圧の夜間降下(dipper pattern)を妨げ、動脈硬化を加速させます。2食であれ3食であれ、夜遅い食事は最大の敵です。私のクリニックでは血圧管理において「夜9時以降は食べない」ことを最優先でお願いしています。

    ▪ 食事の「質」と糖質の質
    白米・白パン・砂糖などの精製糖質は食後血糖スパイクを引き起こします。食事回数を増やしても質が悪ければ血管への負担は同じです。3食食べながらGI値の低い食事を心がけるほうが、2食の暴食よりずっと体に優しい。

    ▪ 「同じ時間に食べる」リズムの安定
    体内時計(概日リズム)は心臓・血管の機能に深く関わっています。食事時間がバラバラだと、血圧の日内変動が乱れ、自律神経への負荷が増大します。2食でも3食でも「毎日同じ時間に食べる」ことが自律神経を整え、血圧安定につながります。

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    自分に向いているのはどちらか——タイプ別の考え方

    すべての人に同じ食事回数が最適なわけではありません。以下の目安を参考にしてください。
    2食が向いている可能性が高い人:

    肥満があり、インスリン抵抗性の改善を目指している
    夜遅くまで仕事をしており、夕食を遅くせざるを得ない(→昼食と早めの夕食の2食)
    自己管理能力が高く、1食の質を意識できる
    血糖値・体重が主な課題

    3食が向いている可能性が高い人:

    65歳以上で筋肉量の低下が気になる
    糖尿病で食後血糖スパイクが問題になっている(→分食で血糖を平準化)
    降圧薬・糖尿病薬を服用中で、食事タイミングが薬の効果に影響する
    消化器疾患があり、一度に大量に食べると症状が出る

    循環器疾患(心不全・狭心症・不整脈)がある方は必ず主治医に相談してください。心不全では水分・塩分管理と食事のタイミングが密接に関係しており、自己判断での食事回数の変更は避けるべきです。

    ★まとめ
    「3食食べなければならない」は絶対的な真実ではありません。しかし「2食のほうが絶対体に良い」というのも、現時点のエビデンスでは言い過ぎです。
    大切なのは:

    食事の「時間帯」を整える(特に深夜食を避ける)
    食事の「質」を上げる(精製糖質を減らす)
    毎日「同じリズム」で食べる
    自分の疾患・体質に合わせて回数を選ぶ

    何食が正解かよりも、「毎回の食事が血管に何をしているか」を意識することが、心臓と血圧を長く守ることにつながります。

    ★よくある質問(FAQ)
    Q➤ 1日2食にすると筋肉が落ちますか?
    A➤ 1食あたりのたんぱく質摂取量が不足すると筋肉量が低下するリスクがあります。体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質を2食で分けて摂る工夫(例:鶏むね肉・豆腐・卵を積極的に)が必要です。特に65歳以上の方は要注意です。

    Q➤ 朝食を抜くと血圧に悪影響がありますか?
    A➤ JACC 2019の研究では朝食スキップ習慣が心血管死亡リスクの上昇と関連していましたが、これは生活習慣全体の影響が大きい可能性があります。朝食の有無より「規則的な食事時間の確立」と「深夜食の回避」がより重要です。

    Q➤ 降圧薬を飲んでいますが、2食にしても大丈夫ですか?
    A➤ 薬の種類によって食事タイミングとの相互作用が異なります。特にARB・ACE阻害薬・利尿薬などを服用中の方は、食事回数を変える前に必ず主治医にご相談ください。茂澤メディカルクリニックでもご相談を承っています。

    Q➤ 糖尿病があって2食にしたら血糖値が悪化しましたが、なぜですか?
    A➤ 2食では1食の糖質量が増えやすく、食後血糖スパイクが大きくなるためです。食事の回数を減らす場合は、1食の糖質量を意識的に抑え、野菜・たんぱく質を先に食べるベジファーストの実践が不可欠です。

    Q➤ 間欠的ファスティングと2食は同じですか?
    A➤ 重なる部分が多いですが同一ではありません。2食制はあくまで食事の回数の話。16時間断食などの間欠的ファスティングは「絶食時間の長さ」に着目した方法で、2食制を実践すると自然と14〜16時間の絶食が生まれる場合があります。心臓病・糖尿病の方が本格的な断食を始める場合は医師への相談を推奨します。

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    参考文献

    Kahleova H, et al. Eating two larger meals a day (breakfast and lunch) is more effective than six smaller meals in a reduced-energy regimen for patients with type 2 diabetes. Diabetologia. 2014;57(8):1552-1560.
    St-Onge MP, et al. Meal Timing and Frequency: Implications for Cardiovascular Disease Prevention. Circulation. 2017;135(9):e96-e121.
    Rong S, et al. Association of Skipping Breakfast With Cardiovascular and All-Cause Mortality. J Am Coll Cardiol. 2019;73(16):2025-2032.
    Lowe DA, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499.
    日本老年医学会. 「高齢者の栄養管理に関するガイドライン」2020年版.
    日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン(JSH 2023).

    このコラムの執筆者

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    院長:茂澤 幸右
    糖尿病学会所属・循環器内科専門医


    循環器内科専門医として、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病診療に従事。
    血糖や血圧の管理だけでなく、将来の心筋梗塞や心不全を防ぐ視点を大切に、
    日々の外来で患者さんと向き合っています。
    このコラムでは、健診結果の見方や最新の医療情報などを、
    外来で実際にお話ししている言葉で分かりやすく解説しています。

    【経歴】
    日本医科大学医学部 卒業
    日本医科大学大学院医学研究科(循環器内科学)修了

    【資格】
    医学博士
    循環器内科専門医
    内科認定医

    【所属学会】
    日本内科学会
    日本循環器学会
    日本心臓病学会
    日本糖尿病学会
    医師イラスト
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